【第五部】第六十六章 富央城攻略戦②
――富央城・山麓・本陣後方――
「戦が始まったようだ」
本陣の後方で蛟がそうこぼす。蛟やエーリッヒ達は一塊となり、イワナガヒメの護衛に当たっていた。
これにはもちろん、和国民からの反対が強く出た。それはそうだろう。ポッと出の外様に大事な姫様の護衛軍の役を取られ、さらにはそれが、味方であるとは言え憎き妖獣達が含まれているのだから。
だが――
「まだそんなことを言っているのですか! この編成は、椿とも相談して決めた内容です! 神楽様やそのお仲間の方々に背中を預けるというわたくし達からの信頼の意思表示とともに、蛟さん達の力を出来る限り敵に見せないための処置でもあります!! 神楽様や椿達が一番危険な場所に乗り込んでいるのです!! 誰が危険とかそんなことをとやかく言っている場合ではありません!! 城を奪還することにだけ集中しなさい!!」
イワナガヒメが大喝した。皆、しゅんとして項垂れたが、それでもそのままは引き下がれず、「自分達からも姫様に護衛をつけさせてもらいます」「サクヤ様には、こちらだけで護衛をつけます」などの条件を通した上でやっとのこと引き下がった。
イワナガヒメも「もう、それでいいから……」と少し投げやり気味になり、やっとこさこの編成に持ち込めたという状況だった。
そのイワナガヒメはと言うと――
目を閉じ、神楽から借り受けた大きな神結晶を両手で抱え、<守護結界>を張っていた。
もう戦端は開かれたのだ。居場所を隠す必要もない。
これについても、イワナガヒメが狙われることを危惧して反対意見が出たが――
「バカを言わないで! より危険なのは、前線で戦うあなた達でしょう!? それに、ここまで攻め込まれるのならば、それはもう本陣が崩壊しているということです!! そうならないよう、生きてわたくしを守りなさい!!」
そんな思いやりのある姫様だからこそ何よりも大事にしたいというのが前線で戦う彼らの想いなのだが、イワナガヒメは、そんな彼らが少しでも有利に戦えるよう、我が身の危険を厭わない。
一時が万事そんな感じであり、イワナガヒメが命令という形を取り強引に周囲を納得させるのだった。
椿からも――
「そちらの判断は法明と姫様に委ねる。――なぁに、姫様は指揮官としても有能であらせられる。安心して従え」
そんな風にお墨付きを出されては、諸将も強く出れない。法明ですら「姫様がそう仰るならその通りにしろ」と言って認めてしまっているのだから。
そうなると諸将はもう覚悟を決めるしかない。
イワナガヒメを死ぬ気で守るという親衛隊のような決意で臨み、本陣後方にネズミ一匹足りとも通さないという厳重な策敵陣、防衛陣を敷くのだった。




