【第五部】第六十四章 そして富央城に
――富央城への道中――
「いや。おかしいだろう!? ――それとも、それがそちらの常識なのか……?」
「いや、まぁ、言いたいことはわかるが、そうなんだから仕方ないだろ?」
激しくツッコミを入れ、椿は額をおさえる。だが、神楽としては、そういうものみたいと答える他無い。諦めたのか、椿は小さくため息をつくと、気を取り直して神楽に向き直った。
「しかしまぁ、その力のおかげで敵を奇襲できる訳だしな。ありがたいことだ」
「うむ。もっと感謝しろ」
「こら、調子に乗るな」
そんなこんなで、神楽達は富央城へと引き続き歩を進めた。
◆
「今回の奇襲作戦とやら、流石に無謀ではないかのう?」
「まぁもう決まったものは仕方ないにゃ。うちと青姫ちゃんでご主人を守るにゃ」
神楽達の少し後ろを青姫と琥珀が歩いていた。青姫が心配そうに不安を口にするが、琥珀はサバサバとしている。
(楽観か豪気か……。しかし、琥珀の言う通り、もう引き返せそうもない。琥珀と二人で何としても我が君を守るしかないのぅ……)
前後は数千の軍隊に挟まれている。今更怖じ気づいてやはりやめるなど進言できるはずもなかった。
青姫は不安を抱えながらも、ただひたすらに皆と富央城を目指した。
◆
――富央城近隣の森――
「椿様。もうそろそろです」
「そうか。――神楽」
「わかってる。――青姫、琥珀。行くぞ」
「相分かった」
「了解にゃ!!」
伝令が時が来たことを伝えにくる。神楽達は皆で顔を見合わせ、うなずき合う。
神楽は<形態変化―翼―>で背中に羽を生やすと、近くにいる椿を背後から両腕で抱き抱えた。
「バカ! どこを触っている!?」
「いや、しっかり持たないと落ちちゃうだろ?」
神楽は椿の胸の下辺りを両腕でロックしたのだが、椿は慌てて顔を赤くし不満そうだ。
「仕方ない……腕を出せ。そう、そんな感じだ。これでいこう」
「は!? ――いや、こっちの方がおかしくないか!?」
椿が体勢を変え、両腕を神楽の首に回す。そして、神楽は椿の腰辺りと膝裏を腕で支える。
――つまりは、お姫様抱っこだった。
「青姫ちゃん……。“敵”はここにもいると思うにゃ」
「落ち着くのじゃ琥珀。こんなことで目くじら立てても仕方なかろう? ――後で我が君を折檻すればよい」
そんな不穏な二人の会話に背筋を凍らせながらも、神楽は天守閣にいるだろう牛頭奇襲のため、四人で早朝の空に飛び立つのだった。




