【第五部】第五十八章 【過去編】①休暇
【時を遡ることしばし】
――中つ国・“御使いの一族”の里――
央都での会議が終わり、神楽達は西の森の中にある“御使いの一族”の隠れ里に戻って来ていた。
会議の場での曹権からの提案『海を渡り、東にあるピオニル大陸とやらに行ってみないか?』を発端に、各々アクション事項を抱えることになったが、準備は万端にしようという見解で皆が合意しているので、十分な時間をかけることに。
だから、神楽達が隠れ里に戻って来たのは、まず疲れを癒すだけのちょっとした休暇目的だった。
なのだが――
◆
「――で、朱雀達はともかく、なんでお前らまでいるんだよ?」
「何よ! 文句あんの!?」
そう。“宵の明星”のクレハとガイルまでついてきていた。また、朱雀と白虎、ピノも来ている。その他の者は、別用とか各々の理由で会議の後、解散していた。
つまりは――
「つまりは、“暇”なんだな?」
「あんた……! 仮にもわたしは、あんたの先輩なのよ……!?」
確かに“宵の明星”は、エクスプローラーでも実質最上位のギルドで、その実績も確かだろう。現に、東都や央都での防衛戦では多大な戦果をあげている。駆け出しの神楽などは敬うべきなのかもしれない。
だが――
「だって、いきなり襲いかかられたからな。俺ら、な~んも悪いことしてなかったのに。“異常者”だよ、俺らからしたら」
「あ、あんたねぇ~……っ!!」
神楽からの異常者扱いに、ワナワナと震えるクレハ。
そう。以前、神楽達が東に向かうために“守護長城”上空を朱雀の眷属に乗り通過した際、このクレハに襲撃を受けたことを神楽は根に持っていた。命の危険にさらされればそれもやむなしだが、クレハの方にも言い分はある。
「開戦間近って時に、妖獣が人界を通る方がおかしいでしょうが!! わたしのはね、正当防衛よ!!」
「――む。そう来たか。それを出されると苦しいが……」
クレハから正論をぶつけられ、思わぬまともな反撃に咄嗟の言葉を失う神楽。なおも言い返そうと口を開いた瞬間、背後から肩に手を置かれた。
「まぁまぁ。済んだことはいいじゃねぇか。――それより、里を案内しろよ? 俺は、あの“ダンゴ”ってのに興味がある」
ガイルだった。里の団子屋を親指でさし、神楽に案内を求めている。
(まぁ、いっか……)
折角の休暇に喧嘩してもなというので、神楽も気持ちを切り替える。
皆を連れて、最寄りの団子屋へと向かうのだった。




