【第五部】第五十七章 なぜ飛べる?
――富央城への道中――
「そう言えば、神楽」
「ん?」
富央城へ向かい進軍中。神楽達はイワナガヒメの<守護結界>内を進んでいた。隣を歩く椿が、ふと思い出したように神楽に尋ねる。
「お前のアレはなんだ? なぜ背中に翼が生えたのだ? どういう仕組みだ?」
「ああ。前に言ったろ? 俺は仲良くなった妖獣の力が使えるんだ。“門”を借りてな」
「門?」
意外にも、椿は門を知らないようだった。
「知らないのか? 姫様のあの能力とか、門から力を得てるだろ? 特殊過ぎるし」
「そう言えば、前に姫様がその様なことを言っていたような気もしなくはないが……どのような感覚なのだ?」
「感覚的な話だから説明が難しいな……。自分の内側に意識を向けると門があって、それを開くと力の奔流が流れ込んできてその力を使えるんだ」
「なんだかズルいな。私も欲しい」
「そう言われてもな……。基本的に門を持つのは妖獣ばかりで、姫様のケースはごく稀だ。うちの一族は門を借りてるだけだしな」
そうなのだ。いずれはイワナガヒメみたいに皆が異能を使えるようになるかもしれないが、それはまだまだ先に思う。
ソフィアの言う“黄昏の世界”にある力への適正とでも言えばいいのか。どうやら人間は動物よりも適正が低いようだし、魔法のように体系化した技術を磨く方が向いているように思える。
実際に、風属性の上級魔法で<飛行>があるわけだし、あれがアーティファクトにでも込められて普及すれば、皆飛べるようになるのではないだろうか。
ということを、神楽は椿に丁寧に説明した。
「なるほどな……。西の大陸にはそのような便利な技術があるのか。だいぶ進んでいるのだな。だが私は、背中に羽を生やして飛んでみたいな。その方が面白そうだ」
これから妖獣との戦争をしに行く道中だと言うのに、椿が無邪気に笑う。昨日の作戦会議の時から神楽は思っていたが、椿は全然気負っていなさそうだ。仲間としては頼もしいが……。
「だが、お前の翼はなぜ“白い”のだ? あの青姫とやらの翼は青いではないか」
「ああ。それはな? ――」
神楽は、自分が飛べるようになった時のことを思い返しながら椿に説明した。




