【第五部】第五十五章 作戦会議⑧
――留城・本丸・作戦会議室――
「俺?」
椿に名指しされた神楽が、皆から注目され、目をパチクリさせながら自分を指差す。椿はうなずき――
「そうだ。――と言うのも、先程のお前と法明の模擬戦を見て急に考え直した案だからな。まだ詳細まで練れている訳ではない」
「模擬戦と言うと?」
「お前の“飛行能力”をあてにしているのだ。富央城は山の上にある。山の麓から本隊は進軍せざるを得ないが、お前には、空から城の天守閣を奇襲して欲しい」
◆
椿がそこまで言うと、待ったがかかる。皆が見ると、蛟だった。
「神楽は確かに強い。だが、一人で敵地のど真ん中に切り込ませるのは作戦などではない。――神楽に死ねと言うのか?」
蛟は怒っていた。その怒気に当てられ、諸将のみでなく椿も一瞬ひるむ。だが、すぐに気を取り直し――
「勘違いするな。そんなつもりはない。――私も一緒に行くからな」
「「「は?」」」
今度は皆がハモる。一瞬、場が静寂に包まれ、一瞬の後、急に騒がしくなる。椿が慌てて説明を続けた。
「別にとち狂った訳ではない! ――神楽。私一人くらいなら抱えて飛べるだろう?」
「あ、ああ……」
「なら問題ない。天守閣にいる牛頭を、私と神楽で仕留める。その後は、城に巣くう残党を処理しつつ、麓から進軍してくる本隊と合流する。これが私の考えている奇襲作戦だ」
「あぶのぅございます!! いくら椿様と言えど!!」
「なぁに。牛頭さえ仕留められれば、後はたいしたことはない。まだ鬼月でもないからな。あの時は私が立ち会えなかったが、牛頭なら過去に戦ったこともある。神楽と二人なら、まず勝てるだろう」
「他にも鬼はわんさかいるでしょう!?」
「神獣はやっかいだが、数はそれ程でもないだろう。それに、大半は小鬼だろう? 女型の鬼や馬頭が制圧競争に負けて富央城にいないのは、斥候からの情報で確認が取れているしな。幸い、富央城に居座る奴らの中に飛べる妖獣はいないようだ。いざとなれば、また飛んで逃げればよかろう?」
ハハハッ! と椿が笑って、腰に差す刀の頭を手のひらでぽんぽんと叩く。
――“妖刀五代目村正【不知火】”。
この和国随一の刀を持つ椿こそが、人界軍最強なのだ。その椿を頼もしく思いつつも、諸将としては気が気じゃない。
――椿は何とも剛毅な性格をしていた。それに、自信もあるようだ。
諸将だけでなく、蛟達も呆れていた。
「奇襲と言うからには、型破りは必要だが……これは、どうなのだ? ――青姫。琥珀」
「わかっておる。――我が君、わらわも行くぞ。琥珀を抱えてついていくのじゃ。琥珀もよいな?」
「もちろんにゃ!!」
「わ、わっちも……!」
「稲姫は儂と共におれ。敵陣のど真ん中に行くのであれば、神楽も汝を守り切れぬだろう」
「僕らもいるから安心して」
「おう! 大船に乗ったつもりでいろ!!」
「……必ず守る」
「私もこっち……ってことかな? 頑張るね」
「そうだな。――稲姫。悪いが、今回は蛟達といてくれ。無茶はするなよ? 妖狐だとわかると、敵も警戒して優先的に狙ってくるかもしれないから、あまり前に出すぎるな? 皆に守ってもらえ」
「うぅ~~~っ……!! 今回だけでありんすよ!? 次は一緒に行くでありんすからね!!」
涙目の稲姫がしぶしぶながら了解した。
諸将はいまだに椿に考え直すよう言ってるが、椿の意志は固く、それで話がまとまってしまった。
――天守閣奇襲部隊。神楽、椿、青姫、琥珀。空からこの四人が天守閣にいると言う牛頭に奇襲をしかける。
「椿様。牛頭は五助の仇です。私に……」
「椿様……」
「彩乃、唯。さすがにそこまで融通できんことは、お前達ならわかるだろう? ――奴は私達が確実に殺す。鬼は他にいくらでもいる。お前達は、富央城を取り戻すことに集中しろ」
「……承知」
「かしこまりました……」
せっかく先陣を切る許可をもらったのに、一番の仇である牛頭を椿達に譲らなければいけないのを悔しがる二人だったが、姫様達からも諭される。
「唯。わたくし達の富央城をお願いしますね?」
「そうよ。彩乃も、頼りにしてるわよ?」
「「はっ! お任せください!!」」
姫様達から期待されているとわかり、二人は迷いを振り切り、元気よく返事を返す。椿は満足げにうなずき、諸将に向き直ると、よく通る声で場をしめた。
「出立は、急だが、明後日の明け方だ! 富央城までは一日かけての行軍となるが、翌日、奴らが寝ている朝から昼にかけて奇襲をかける。本隊の動き方については、後程法明と共に伝える。――いいか!? これはあくまで侵攻作戦の足掛かりだ! ここで躓いたらそれまでだ! 何としてもやり遂げるぞ!!」
皆から、決意に満ちた鬨の声が上がった。




