【第五部】第五十四章 作戦会議⑦
――留城・本丸・作戦会議室――
「済まない。嬉しくてつい、な。許せ」
ほおを赤らめ、どこか恥ずかしそうにそう言う椿。言われた神楽としては――
「いや、まぁ……気にするな。とにかく、計画の助けになれて何よりだ!」
やはり気恥ずかしいので、話題転換することに。特大の神結晶二つだが、何かに使えるかなと朱雀から譲り受けていたが、まさかこんなところで有効活用できるとは思わなかった。
「姫様。<固定封印>の力は込められるのでしょうか?」
「ええ。その通りです、法明。北東の“鬼門”と南西の“裏鬼門”。この二つの門を閉じる鍵となるでしょう」
「まずは中央と南を取り戻し、“本州連絡大橋”を封鎖して本州からの増援を断つ。その上で、東と西に攻勢をかけ、鬼門と裏鬼門を封じつつ城を奪還する。――そこまで出来れば、後は残党の処理。私達の勝ちだ!!」
「「「おお!!!!」」」
椿から方針の一通りが示された。今まで勝ちの目もなく鬼気迫る表情をしていた諸将の顔に明るさが宿る。
「それが理想だが……後は、それを成し得る戦力と作戦、行動力という訳だな。もちろん、守備も疎かにはできん。鬼月までは残りおよそ三週間。できる限り、有利な状況を作り出したいものだが……」
現実的な目線で法明が具体案を求める。絶望的な中に生まれた希望に浮かれていた諸将にも、緊張感が戻った。
皆に注目される椿は――
◆
「法明の言う通りだ。具体的には、鬼月までには最低限、中央と南の奪還、および“本州連絡大橋”の封鎖はしなければならない。――さて、ではそのための侵攻作戦だが……。至って単純だ。“奇襲”と“陽動”。これに尽きる」
そして、椿は地図を指し示しながら、侵攻ルートについての説明を始める。
「まずは富央城への奇襲だ。先月奴らに奪われたこの城を奪還する」
「? 先月? 奴らは、一年に一月間の鬼月に攻め来んでくるんじゃなかったか?」
神楽が問うと、椿がうなずき答える。
「ああ。奴らの大侵攻があるのは決まって鬼月だった。――だが、奴らは、もう我々の抵抗力があまり残されていないと踏んでいたのだろう。遊び半分で『誰が富央城を制圧できるか』の競争を始めたのだ。……情けなくも先月、“牛頭”率いる群れに落とされてしまった」
椿がそこまで言うと、とある箇所から大きな声が上がった。
皆が注目すると、ソレは彩乃だった。そして、もう一人。
「椿様!! 富央城の奪還作戦には、是非とも私に先陣を切らせてください!!」
「私からもお願い致します! 奴らは“五助”さんの仇なんです!! 仇を取らせてください!!」
彩乃と唯は、片膝をつき、椿にそう嘆願する。だが、椿の反応は厳しかった。
「お前達は姫様達の護衛だろう? 気持ちはわからなくもないが、その重要な役割を放り出すとは何事だ!!」
椿の大喝が飛ぶ。そのプレッシャーに身をすくませる諸将が多数出るほどだ。だが、彩乃と唯は、困ったように姫様達を見つつも、顔に宿る決意の色はまったく揺らがなかった。
「椿。よいのです。――唯がこれ程に自分の想いを前面に出すのはこれが初めてです。いつも一歩引いて我慢していますから。むしろ、わたくしはそれが嬉しいのです。行かせてあげてください」
「姫様……」
イワナガヒメが自分のことをそんな風に思ってくれていたと知り、嬉しさと申し訳なさで唯の目尻に涙が浮かぶ。
また――
「わたしの方もね。――彩乃には、いつも迷惑や苦労をかけちゃってる。皆苦しいのに、ワガママをぶつけちゃったり……。彩乃も行かせてあげて? 身を隠すだけなら、姉様と二人で何とかするわ」
「サクヤ様……」
コノハナサクヤヒメが、苦笑いしつつそう告白する。彩乃は、信じられないというように目をみはっていた。しかし、すぐに気を取り直し、椿を力強い眼で見つめ返した。
皆からそう言われた当の椿は、困ったように眉を八の字にすると――
「わかったわかった! 許可する。姫様達には、代わりの者をつけよう。――これでは、私が悪者みたいではないか?」
椿がそう言い肩をすくめると、皆から笑いが起こる。
「だが、姫様達の護衛の任を解く訳ではないぞ? ――必ず生きて戻り、姫様達をお守りしろ」
「「はっ!!」」
彩乃と唯から元気のよい返事を受けると、椿はうなずき、作戦内容についての説明を始めた。そして、神楽の方を見て言う。
「富央城奪還作戦だが……作戦の要は、神楽。お前だ」




