【第五部】第五十三章 作戦会議⑥
――留城・本丸・作戦会議室――
「<固定封印>……?」
初めて聞く単語に首をかしげる神楽達。――いや、神楽達だけでなく、椿を除く諸将やコノハナサクヤヒメでさえも、頭に『?』を浮かべていた。
こほんと可愛らしく咳払いし、イワナガヒメが説明を始める。
「わたくしの力は<守護結界>ですが、その力の本質は、“そこにある流れを操作する力”なのです。<守護結界>は流れに“動”を与え、<固定封印>は逆に“静”を与えるのです」
今度ばかりは、皆、一斉に首をかしげた。イワナガヒメは、まわりを見回しちょっと困り顔だ。――いや、例外がいた。
「なるほど。鬼門の流れを止めて、鬼を行き来できなくさせるんですね!」
「その通りです、衛!」
衛が納得顔でうなずいている。イワナガヒメは理解者がいて大喜びだ。法明が気まずそうに、一つ咳払いする。
「鬼門の仕組みをご理解されているのですか?」
「いえ。ですが、“空間や次元ごと固定”してしまえばすむ話です」
法明が今度こそ目をパチクリさせた。『このお方は何を言っているんだ』と言いたいのがありありとわかる。姫様相手に無礼な態度は取れないので、頑張って自制しているのだろう。
代わりに、コノハナサクヤヒメが聞いた。
「姉様。姉様の力について、わたし達も全部知ってるわけじゃないからね? わかるようにお願いね? えっと……姉様って、空間とか次元? を固定? できるの?」
よく理解できていないながらも、イワナガヒメに聞いてくれている。イワナガヒメは、嬉しそうにうなずいた。
「ここまで力を使いこなせるようになったのはつい最近なのですけどね。幾度も力を使い、習熟したのでしょう。<守護結界>のように広範囲は無理ですが、これ程大きな神結晶が手助けしてくれるのであれば、鬼門だって封印できるでしょう」
イワナガヒメは自信満々だ。皆は戸惑っている。本当に大丈夫なのかと。ここで、椿――なぜかドヤ顔――が前に出た。
「なんだなんだお前達! 姫様のおっしゃられることが信じられないのか? 今まで、姫様がおっしゃられたことに間違いはあったか?」
「いや、無いな……確かに、姫様は現人神であらせられるし、そのようなことも可能なのかも……しれん?」
法明が常に無い程自信無さげだが、それでもイワナガヒメの言うことを信じたようだ。他の皆も同様。
そして――
皆――稲姫達を除く――が、神楽をじーーっと見つめる。『目は口程にモノを言う』とはあるが、今がまさにソレだった。
神楽にもよくわかっている。
「わかったわかった! その特大神結晶2つは預ける! ――皆もいいな!?」
念のため仲間にも聞くが、否やは無かった。
イワナガヒメ達から歓声がわきおこる。
「ハハッ! 初めからそう素直に差し出せばよいのだ! 焦らしおって!!」
「ちょ! 椿! ――胸! 胸が当たってる!!」
嬉しさでたがが外れてしまった椿にヘッドロックされ、ほおの触れるやわらかさにドギマギする神楽。
皆が怒号混じりに二人を引き剥がしたのは言うまでもない。




