【第五部】第四十五章 自己紹介②
――留城・本丸・作戦会議室――
「い、稲姫でありんす……」
琥珀が元気に自己紹介し、次は稲姫の番に。稲姫は神楽の背に隠れ、顔だけのぞかせて消え入るような小さな声で名乗った。
今までこんな大勢に注目されることなんてなかっただろうし、致し方ないだろう。神楽はフォローにまわる。
「稲姫は妖狐の神獣だ。魔素の扱いに長けている」
「うむ。和国には他にも妖狐がいるからな。特徴やその力の強大さは理解している」
神楽のフォローは不要だったようだ。法明が言うように、他の和国民にも常識的なようで、うなずく者も多かった。
「まぁ、“玉藻の前”とか有名だしな」
「おい。不吉な名前を出すのはやめろ……」
――“玉藻の前”。
大嶽丸や酒呑童子と並ぶ、和国における三大妖怪の一体だ。
椿が眉をひそめて言うように、和国民の怖れの象徴でもある。稲姫と同じ種族で妖狐だ。“白面金毛九尾”とも呼ばれており、妖狐の中でも特級の危険度を誇る。
その名を聞いた和国民達の中には、玉藻の前の名を聞いただけで身震いするものさえいた。
「悪かった」
「稲姫ちゃん。稲姫ちゃんもお姫様なの?」
雰囲気の悪くなった場を取り繕うように、イワナガヒメが稲姫に近づき、そう尋ねる。
見た目は同い年くらいの少女だし、同じ『姫』を名に持つことで、どこか親近感がわいているのかもしれない。稲姫も、イワナガヒメのことは怖がらなかった。
「わっちの名は、主様がつけてくれたでありんすよ」
「主様?」
「ああ。稲姫は俺のことをそう呼ぶんだよ」
イワナガヒメは納得したようにうなずくと、嬉しそうに稲姫に右手を差し出した。
「稲姫ちゃん。よろしくね?」
「よ、よろしく……」
稲姫はおずおずとイワナガヒメの手を取り握手をかわした。なんとも微笑ましい光景だった。玉藻の前の名が出されたことではりつめていた場も、少し緊張がとけたようだ。
「なら次は、わらわの番じゃな。“青鷺”族の青姫じゃ!!」
「また姫か?」
今度は青姫が前に出て名乗る。椿からツッコミが入った。
「青姫さんも神楽様が名付けられたのですか?」
「いや、わらわは青鷺族の姫じゃ。まわりからは青姫と呼ばれておる。父様、母様からもらった名も別にあるのじゃがな」
「そうだったでありんすか!?」
「? 言ってなかったっけ?」
イワナガヒメの問いに青姫が答えると、初めて知った稲姫が驚きから声を上げる。
「言ってなかったでありんすよ!!」
「しかし、問題なかろう?」
「何か都合が悪いのか?」
「べ、別に問題はないでありんすが……」
どことなく不満そうな稲姫。唇がとがっている。首をかしげながらも、神楽は次に、蛟に順番を回す。
「蛟」
「ああ」
蛟が前に出た。すると、蛟の放つ強大な存在感を感じとってか、再び場に緊張が走るのだった。




