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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第五部 “和国・北洲の戦い”編①
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【第五部】第四十三章 参戦理由

――留城・本丸・作戦会議室――


 イワナガヒメの説得により、皆、不満は抱えていようが、それをもらすことは控えた。


――いや、法明が声を上げる。


「なぜお前は私達を助ける? 姫様も仰っていたが、お前達には何の得も無いだろう? あえて言うが、私がお前と同じ立場なら、仲間の安全のためにこの国から退去する。周りの説得など、右から左に聞き流してな」


 法明が歯に衣着せずに自分の考えを述べると、場が静まり返った。神楽は、自分の考えをまとめながらゆっくり言葉をつむぐ。



「俺だって、話を聞いた当初はそのつもりだった。でも……」


 神楽は法明の目を真っ直ぐに見返しながら答える。


「不器用に――でも、自分の信念に従い命を散らせようとしている人達がいた。こんな余所者の俺に、三つ指をついて涙ながらに助勢を懇願する女の子がいた。その女の子を見て、自分の無力さを嘆きながら声を震わせる侍がいた。――守りたいと思ったんだ」


 その言葉に、ハッとしたようにイワナガヒメと椿が神楽を見る。だが、法明はまだ納得しない。


「ならば、姫様と椿を連れて逃げればよいではないか。お前には、それを強引にでも成せるだけの力がある」


 神楽は『誰が』とは言わなかったが、そのことを初めて聞いた法明にはお見通しだった。


 神楽は困ったように笑う。


「本人達の意思を無視してそんなことはできないよ。俺が逆の立場でそれをされたら、一生後悔する。――それに、二人だけじゃない。皆苦しんでる」


 神楽はコノハナサクヤヒメをちらりと見たが、うつむき続けている彼女は気付かなかった。


「それに、俺は和国に人間の住む場所が全く無くなるのをよしとはしない。和国は広い。本州が“獣界”なら、妖獣達の住む場所は十分にあるはずだ。なら、本州に帰ってもらって、ここ北州は“人界”にする」

「ふむ。理解出来る考えではあるが……傲慢だな。自分だけの力でそれが出来ると信じて疑っていないように見える。お前の力は確かに強力だ。――だが、うぬぼれるな。戦は個の力だけで決するものではない」


 法明に『うぬぼれるな』と言われた神楽は、声を上げて笑った。


「……何がおかしい?」


 なぜ神楽が笑うのか理解出来ない法明が、眉間にシワを寄せて問いただす。


 神楽は答える。



「昔の俺だったら、確かにうぬぼれてたかもな。――でも、自分よりも強い奴に負けた。それで、好き勝手身体をいじくられて、仲間も奪われて、挙げ句の果てに“廃棄”されかけた。今こうして仲間と共に生きていられているのは奇跡みたいなもんだ。――いや、“皆に助けてもらって”生きながらえた」


 そして、神楽は毅然とした態度で法明に告げる。


「今の俺は、怖くて仕方無い。また仲間を失うかもしれないのが。俺が撤退判断を自由に持つことを参戦条件にしたのはそのためだよ。――臆病なんだよ、俺は」


 最後の言葉は、自分に向けた自嘲の言葉だった。だが、直ぐに毅然とした態度で、こう宣言する。


「でも、やると決めたこと――自分がそうすべきだと判断し決めたことは全力でやる。そのために力は惜しまない。――それでもまだ文句があると言うのなら、この話は無しだ。あんたの言う通り、仲間を連れてさっさと“中つ国”に帰る」


 神楽の宣言に声を発せる者はいない。――いや、やはり法明が声を上げた。『参った』とでも言うように、肩をすくめてみせる。



「私が悪かった。――お前の本気を試したのだ。背中を預けるに足る人間かどうかを、勝手ながら図らせてもらった。……そんなことができる立場でもないのにな」


 そして――神楽に頭を下げる。


「お前の力を貸してくれ。――これでもまだ文句を言う奴は、姫様の言うように、より良い代案を示せ」


 後半は周りの諸将に向けた言葉だった。周囲を見回しながら言う。しかし、諸将から反論の声は上がらない。


 法明は神楽に向き直る。


「お前は本当に正直だな。良くも悪くも」

「信頼を築く基本は、本音であたることだと思ってる。それで分かり合えないなら仕方無い。相性が悪いってことだ」


 笑顔でそう答える神楽を、琥珀達は誇らしげに見つめていた。


 場をまとめるため、イワナガヒメが一つ手を叩いた。



「では! 神楽様の参戦は決定です!! ――神楽様、何卒わたくし達にご助勢下さいませ」



 

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