【第五部】第四十二章 参戦条件の周知
――留城・本丸・作戦会議室――
イワナガヒメや椿、法明、諸将達。そして、神楽達は三の丸にある訓練場から本丸にある広い作戦会議室に場所を移していた。
神楽の力が法明からも認められ、椿からも既に認められていることから、神楽の参戦に対して声高に異を唱える者は今や誰もいなかった。
「サクヤは大丈夫でしょうか……?」
「私が見て来ます」
イワナガヒメの心配を打ち消すよう、お付きの唯が、定刻になっても会議室に現れないコノハナサクヤヒメの様子を見てこようとする。
だが、その配慮は不要だった。
「遅れてごめんなさい!」
コノハナサクヤヒメが今ちょうど、彩乃を連れて会議室に現れた。“いつもの”コノハナサクヤヒメに見た目上は戻っている。イワナガヒメは、安堵の吐息をついた。
必要なメンバーがそろったことで、椿が場を仕切る。
「それでは作戦会議を始める。――いいか? これからの行動に、この国の――人類の未来がかかっている。言うまでもないことだが、皆、真剣に臨むように」
そうして、作戦会議が始まった。
◆
「まずは、この神楽だ。皆も先程見ただろう? 我々に味方してくれる、非常に頼もしい戦力だ」
「ですが、神楽様達の参戦には条件があります。それは――」
椿とイワナガヒメが、神楽から持ちかけられた三つの参戦条件を皆に話して聞かせる。
それを要約すると、以下の通り。
1 神楽の仲間達の妖獣を襲わない
2 神楽達の撤退判断は、神楽に委ねる
3 投降した妖獣の処遇は神楽に委ねる
二人がそう説明すると、予想通り、場が紛糾した。
「バカな!? なんだその身勝手な条件は!?」
「力があるとは言え、こんな馬鹿げた要求は飲むべきではないだろう」
「ですが! “力は力”です!! 今、我々が喉から手が出る程欲しているものではありませんか!?」
「だからと言って、余所者の好きにさせていい訳もない」
その紛糾する場をまず静めに入ったのは、イワナガヒメでも椿でも法明でもなく、コノハナサクヤヒメだった。
◆
「皆、落ち着いて! 彼は何も、自分勝手したいからこんな条件を持ちかけた訳じゃないの! 仲間が大事で、自分の信念を曲げないためなのよ!!」
イワナガヒメや椿からの受け売りだが、姫であるコノハナサクヤヒメからの言葉には、皆、中々異を唱えられない。
この場はこれで収まるかと思われたが――
「ですが、やはり納得はできません。せめて、捕虜の処遇だけでも取り下げられませんか?」
諸将の一人がそう提案すると、反論が来ると身構えていなかったコノハナサクヤヒメは狼狽えてしまう。
その場を代わりにおさめたのは、イワナガヒメだった。
「皆様。神楽様達が、わたくし達のために戦う合理的な理由なんて何も無いのです。お情けで、わたくし達にご助力頂くのです。それは、現在どうしようもない敵との戦力差から、わたくし自身がそう望んだことでもあります。神楽様の力を借りないと言うなら、対案を出してください。より有力な対案を」
イワナガヒメが毅然とした態度で皆に告げる。ただ神楽が気に入らなかった者達は、それだけで口を閉ざした。
(わたしじゃ……わたしじゃダメだっていうの!?)
ただ一人、コノハナサクヤヒメだけがそんな理由で歯を食いしばるのを、彩乃は困ったようにただ見守るしかなかった。




