【第五部】第四十章 コノハナサクヤヒメ
――留城・三の丸・訓練場――
「とんでもない化物ね。姉様の見立ては正しかったってことかしら」
「………………」
コノハナサクヤヒメと彩乃は、一般の観客からもさらに離れたところで、その戦いの一部始終を見ていた。
「これは、何としても繋ぎ止めておかないとね。――彩乃。あんたは絶対にアレを怒らせるんじゃないわよ?」
「……かしこまりました」
「それにしても……姉様、本気じゃない? まさか、本当に“好き”なんてことはないわよね?」
「……わかりかねます」
彩乃の返答に不満げに鼻を鳴らすコノハナサクヤヒメは、つまらなそうに席を立つ。
(色仕掛けでもなんでもして、絶対に繋ぎ止めてこの国のために戦わせる。――わたしには、姉様のような力は無い。わたしには、これしか出来ないんだから……)
そして、コノハナサクヤヒメは、彩乃を連れて勝負のついた訓練場の中央へと向かった。
◆
「神楽様! 流石です!!」
「いやぁ~……まぁ、借り物の力だけどね」
「いや、たいしたものだ。――お前には驚かされてばかりだな……」
「興味深い力だ」
椿が神楽の手を取り勝利宣言した後、興奮から頬を赤くし目を輝かせたイワナガヒメが走り寄ってきて、神楽の手を取り大はしゃぎだ。
椿と法明も近寄ってきた。法明は負けを認めたのにアッサリしている。
(俺の実力が見たかっただけで、まだ実力を隠してるんだろうな……まぁ、当然か)
そして、琥珀達もこちらに向かってきているが、別方向からも二人来る。
コノハナサクヤヒメと彩乃だった。
◆
「スゴいスゴい!! 君ってこんなに強かったんだね!!♪」
コノハナサクヤヒメが神楽の方にパタパタと走り寄ってきた。あざといが、なかなか様になっている。
「ぁ…………」
イワナガヒメは、少し残念そうに神楽の手を離した。入れ替わるように、コノハナサクヤヒメが神楽の手を握ってくる。
「仲間の力を借りてるだけだよ」
「そうだとしてもスゴいよ! そんなことできる人、他に知らないし!!」
コノハナサクヤヒメは大興奮だ。でも――
「あの……無理してないか?」
「え…………?」
これは、直前にイワナガヒメと同じようなやり取りをしたからこそ気付けた違和感だったのだろう。神楽は、コノハナサクヤヒメが“何か無理をしている”と感じたのだ。
「あ、えっと……ごめん。忘れてくれ。――お~い! こっちだ!!」
コノハナサクヤヒメが笑顔のまま固まると、気まずくなった神楽は、近くにまでやってきていた琥珀達に手を振る。――自然にコノハナサクヤヒメの手を離しながら。
「ご主人!! また浮気にゃ!?」
「そろそろ真面目にお灸をすえるべきではないかえ? <蒼炎>ならいつでも出せるぞ?」
「わっちはもうあきらめたでありんすよ」
「……ダメ。あきらめちゃ。許すとどこまでも浮気する」
「ソフィアのことはいいの?」
集まってきた女性陣がかしましい。皆、器量よしばかりだ。コノハナサクヤヒメから笑顔が消えた。
「サクヤ様……」
「帰るわよ」
仲間に囲まれる神楽達に皆が気を取られている隙に、コノハナサクヤヒメはスッと距離を取る。あたかも、別のところでの用事を思い出したように、彩乃を連れてその場を後にした。
イワナガヒメが、そんな自分の後ろ姿を心配そうに見つめていることには気付かずに。




