【第五部】第三十九章 神楽VS法明④
――留城・三の丸・訓練場――
「流石は法明様。<十二天将>の複数同時召喚なんてできるのは、法明様と衛くらいじゃない?」
「僕は二体が限界だよ。法明様は三体だから同じにしちゃ失礼だよ」
唯と衛は法明と同じ陰陽師なので、今法明がしていることの凄まじさがよくわかっている。
――<十二天将>
<式神>の中でも最上位の十二体だ。その十二体とは――
<トウシャ>
<スザク>
<リクゴウ>
<コウチン>
<セイリュウ>
<キジン>
<テンコウ>
<タイイン>
<ゲンブ>
<タイジョウ>
<ビャッコ>
<テンクウ>
それぞれが強大な力を持ち、普通の人間がかなう相手ではないのだ。それが、唯や衛達“和国民の常識”だった。
椿ぐらいに腕の秀でた侍なら太刀打ちできるだろうが、まさかあんな特異な能力を持った人間がいるなんて思いもよらない者達からしたら、仰天の出来事だったであろう。
だが、神楽が<スザク>を倒してみせたことで法明が本気になった。<十二天将>の三体同時召喚だ。
<十二天将>は、その力の強大さ故にその制御が難しく、下手をすると暴走させてしまう。一般の陰陽師は下位の式神を使役していることからも、<十二天将>を使役できること自体が陰陽師としてのステータスになっていた。
ちなみに、唯は一体までなら<十二天将>を使役できる。相性もあり、十二体の中でも使役できる時間はまちまちだが。
衛は二体まで同時に使役できる。それも、安定して長時間。衛を陰陽師のナンバー2たらしめている力の証明でもあった。
法明は更にその上を行く。<十二天将>を三体召喚したことで、この場の和国民の誰もが――イワナガヒメは違ったが――神楽の降伏を予感した。
だが――
◆
「にゃはは!! ご主人、やりたい放題にゃ!!♪」
「もう主様は“人間”ではないと思うでありんすよ」
「うむ。じゃが、だとしたらなんじゃ? “現人神”とやらか?」
「儂も見たことはないが、伝説にうたわれる現人神のようではあるな」
神楽が<十二天将>三体を相手取り、むしろ押していた。それを琥珀達神獣が、『もうあいつ別もんだろ』というように人に非ずの烙印を押している。
「……私、あの時、よく生き残れたなって実感するわ」
クリスは、レインの近くでただその光景を冷や汗をかきながら見ていた。実際に神楽と戦って生き残った自分は運がよかったのだと、再認識したようだ。
(もう絶対に敵対はしたくないわね……するつもりもないけど)
◆
法明は目の前で起きている事態が理解できなかった。
身体から異様なオーラを放ち、瞳孔の割れた金眼を爛々と輝かせた神楽が、<ビャッコ>、<セイリュウ>、<ゲンブ>と肉弾戦を繰り広げている。
なぜ人間があのような肉体能力を持てるのか。まったくもって意味がわからない。
法明が今までに戦ってきたどんな鬼をも凌駕しているように思えた。それは、今ちょうどヤラれて霧散した<セイリュウ>の残滓からもわかる。
「バカな…………」
法明をして、呆然としながら、ただそれだけをこぼした。
◆
「椿、椿! 見てください!! わたくしが神楽様を頼ったのは間違いではなかったでしょう!?」
「………………」
イワナガヒメが、興奮と嬉しさから隣の椿の袖をクイクイと引っ張る。だが、反応はない。
顔をのぞきこんでみると、神楽の異次元レベルの強さに呆然としているようだった。椿にしては珍しい。
「……あ、終わりましたね!」
<セイリュウ>に続き<ゲンブ>が。そして最後に<ビャッコ>が倒されて霧散した。
そして、法明が両手を上げて敗けを認めたのだ。
訓練場内は、騒然としたどよめきに包まれるのだった。




