【第五部】第三十八章 神楽VS法明③
――留城・三の丸・訓練場――
「始まったんだよね?」
「うん。椿様達は戻ってきてるし……」
開戦し、椿とイワナガヒメが神楽達から距離を取ったのだが、神楽、法明どちらも動こうとしない。
「『達人の勝負は一瞬でつく』ってやつ?」
「いや、単にお互い、相手の出方をうかがってるだけだと思うよ?」
衛の読みは正しかった。椿が大声で『いいから戦え!!』と怒鳴っている。
◆
「仕方無い……こちらから申し込んだ訳だしな。こちらからいかせてもらう」
椿の怒鳴りを受け、法明が動いた。懐から札のようなものを取り出し、何やら呪文のようなものを唱えている。
「――出でよ。<スザク>」
「朱雀だって!?」
法明が詠唱を終えると、手に持つ札から炎の鳥が現れた。
神楽は『スザク』と言う言葉にギョッとするが――
◆
「ずいぶん可愛い朱雀にゃね」
「あれは別物でありんすね」
「うむ。じゃが、その“根源”は同じかもしれぬぞ?」
「そうだな。どうやら法明とやらには、根源の力を札に封じる力があるらしい。それを呼び出したのだろう」
戦いの場から少し離れた場所――観衆からも離れた場所――で、琥珀、稲姫、青姫、蛟が、札から現れた炎の鳥をそう評価する。
「どうやって倒すんだろうな?」
「飛んでるからね。でも、遠距離攻撃は彼にもあるし、槍か魔法かな?」
「……二人とも、大事なことを忘れてる。今の神楽は……飛べる!」
“青ノ翼”の面々も琥珀達の近くで戦いを見ていた。レインが、なぜかドヤ顔で誇る。
――そして、神楽は実際にそうした。
◆
「――姉さん。僕は夢を見てるのかな……?」
「なら私も夢を見てるのね……。彼の背中に“羽”が見えるから」
衛は苦笑いで、唯は脱力気味につぶやく。周りの観衆は、驚きから軽い混乱に陥っていた。
椿達の方も――
◆
「スゴいですよ椿! 神楽様が空を飛んでます!!」
「もうアイツ、人間を辞めてるんじゃないですか……?」
はしゃぐイワナガヒメに、どこか投げやりな椿。それもそのはず、神楽が背中に一対の白い羽を生やし、空を飛びながら法明の召喚したスザクと戦っているのだ。
――そして、押していた。
◆
(バカな……こんなことが有り得るのか?)
法明は一見冷静なようで、おそらくこの場で一番驚いていただろう。何せ、人間がすぐ目の前で翼を生やして空を飛び回っているのだ。
しかも、器用なもので、両手で槍を操りながら背中の羽でパタパタと飛んでいる。
「お~い! “コイツ”って、生きてるのか? 倒しちゃってもいいのか~?」
挙げ句の果てに、そんなセリフをはく余裕すらうかがえる。一応、聞かれたことに答えるよう、法明が答える。
「構わん。それは力の集合体に指向性を持たせた<式神>。倒されても再召喚は可能だ」
「ふ~ん……面白いな。じゃあ、まぁ、遠慮なく」
神楽はそれだけ言うと、手に持つ槍でスザクの胸を突き刺した。スザクの身体が忽ちのうちに霧散する。
そして、神楽は地面に降り立った。
「次は何を見せてくれるんだ?」
そして、この余裕である。法明は、思わぬ強敵に笑みをもらした。
「<十二天将>を侮ってもらっては困るな」
そして、今度は<ビャッコ>、<セイリュウ>、<ゲンブ>を同時にけしかけてくるのだった。




