【第五部】第三十七章 神楽VS法明②
――留城・三の丸・訓練場――
「姉さん」
「衛も来てたのね」
「うん。――どっちが勝つと思う?」
「もちろん法明様よ……と言いたいところだけど、わからないわ」
「見たの?」
「見てない。――だけど、椿様が認めているんだもの。彼は強いのよ」
「どんなだろうね? ワクワクするよ!」
「あんたねぇ……」
留城三の丸にある訓練場は、多くの観衆でごった返している。その中には、普段イワナガヒメ付きの狩衣の少女――唯もいた。
片時も姫様のお側を離れたくはないが、今は椿が姫様に付き添っている。その椿に、「お前もゆっくり見学するといい」と一時的に任を解かれ、少し離れた場所でこうして見学しているという訳だ。
衛は唯の弟であり、陰陽師としての才は弟の方が頭何個分も抜きん出ている。はじめはそれがコンプレックスだったが、今は受け入れている。――というか、妖獣との戦争中で、常に命の危険にさらされていると、そんな劣等感を抱く余裕すらない。
――『死んでいった同胞達に恥じぬよう、出来る限りのことを精一杯する。姫様達だけは死んでも守る』
それだけが、自分のすべきことだと割り切っている。今は、弟の才が頼もしく思えると同時に、弟が強敵に当てられるだろうことを懸念し心配はしているが……。
その弟は、何が楽しいのか、ニコニコ笑顔だ。いつも弟は元気だった。“こんな時”なのに。
その目線の先には、訓練場内中央――法明と向き合う銀髪の少年がいる。椿とイワナガヒメがルールの説明をしている今も、特に緊張した様子はない。
皆が見守る中、戦いが始まろうとしていた。
◆
「勝敗はどちらかが敗けを認めるか、戦闘不能になることで決する。戦い方に制限はつけないが、殺し合いが目的でもない。過剰だと判断したら私が止めに入る。いいな?」
椿がそう言うと、法明と神楽がうなずく。
(ふむふむ……なら、さっさと大技を出すか? 力を見せればいいんだろ? ――だけど、陰陽師の力は確認しておきたい。まずは受けだな)
法明は狩衣を着ており、椿達のように刀は腰に差していない。
(遠距離戦タイプか? ――だけど、ここは結界内で魔素の流れが乱れてる。“俺達以外で”まともに戦えるのか?)
稲姫の<魔素操作>があれば、神楽はどうとでもなる。魔素が乱れているのであれば、整えて使うまでだ。だが、法明はどうだろう? 同じことができるのか? 興味は尽きない。
(まずはお手並み拝見……ってね)
そして、ついに神楽VS法明戦の幕が切って落とされる。椿が声高に宣言した。
「では――――はじめっ!!」




