【第五部】第三十三章 自己紹介
――留城・本丸内広場――
「どうも。神楽です」
「カグラ……?」
銀髪の少年が名乗ってきた名は、和国由来の読みをしていた。だが、髪は銀髪で、衣服は異国のものだろう。しかし、顔立ちは自分達同様、和国人のものに思えた。
法明は奇怪な風体の少年に戸惑ってしまうが、周りの目もある。すぐさま気を取り直し、名乗り返す。
「いや、失敬。私は法明。陰陽師部隊の大将を拝命している」
部下共々立ち上がり、少年――神楽に自己紹介する。神楽は、マジマジと法明達を見回している。
「如何したか?」
「あ、いや、ごめん……。珍しくて、つい」
「そこの椿は侍部隊の大将をしているが、それと扱いは似たようなものだ。陰陽師について、知らないようだな?」
「うん」
「私もそちらについて、知りたいことがある。――姫様」
「そうですね! 今から皆さんに神楽様達を紹介しますね!」
話を振られたイワナガヒメが、手をパン!と打ち鳴らし、整列する将軍達のもとにパタパタと駆けていく。「危ないですよ!」と急ぎ走り寄る唯の制止も聞こえていない。常に無いはしゃぎようだった。
「俺らも行きましょうか」
「ああ…………」
神楽も仲間を連れてイワナガヒメのもとに向かう。それを目で追う法明達。そのうちの一人からぽつりと呟きが漏れる。
「神獣が大人しく人間に付き従ってる……? 俺は、夢でも見ているのか?」
その戸惑いは、法明も共有するものだった。だが、あまり姫様達をお待たせする訳にもいかない。
「姫様や椿から説明があるだろう。――行くぞ」
法明も部下を引き連れ、姫様達のもとに向かうのだった。
◆
立ち並ぶ諸将の列に法明達が加わる。陰陽師部隊の大将でもある法明は、中央最前列に椿と共に並んだ。
その対面に向かい合うように少し離れて立つ姫様達とお付きの唯、彩乃。その右側――イワナガヒメの右隣に神楽達が並んだ。狐耳の少女は、このような場に不慣れなのか、神楽の背中に隠れてしまい、服の裾をちょんとつまんでいる。
神楽は苦笑いするが、特に振り払おうともせず、されるがままだ。姫様達も含め、『しょうがないな』と言うように放っておくことに。そのまま場を進行させる。
「皆様、お忙しい中、よくぞお集まりくださいました。戦略会議の前に、紹介する方々がいます。既にご存知の方もいると思いますが、わたくし達にお味方くださる、神楽様とそのお仲間の方々です」
イワナガヒメが神楽達を手で指し示しながらそう笑顔で言うと、神楽が声を張る。
「ご紹介に預かりました神楽です。既にご存知の方もいるとは思いますが、俺は、和国出身で、少し前までは中つ国にいました。とある事情でここに流れ着いたのですが、姫様達から事情を聞き、協力させてもらいます。どうぞよろしく」
そうして、“一筋縄ではいかない自己紹介”が幕を開けた。




