【第五部】第三十二章 邂逅
――留城前――
「法明さまぁ~~~っ!!」
法明が部下達を連れて留城前まで戻って来た頃、出迎えに一人の少年が現れた。口元に手を当て、嬉しそうに法明の名を叫んでいる。
法明達と同じ狩衣を身に纏い、顔にはまだ年相応――姫様達と同い年の十四歳――の幼さと元気さが残っている。
どことなく緊張感に欠けた行動ではあるが、このような追い詰められた状況でも明るく振る舞えるのは、幼いながらも精神力の強さがうかがえる。――『単に、鈍感なだけ』と姉の唯なら言うだろうが。
法明が軽く手を上げて答えると、やがて少年の方から駆け寄ってきた。
◆
「法明様! 皆様方! 任務ご苦労様です!!」
「衛。何があった?」
「――あ。えっと……今、聞きます?」
少年――衛は、法明が『何を』と言わずとも、聞こうとしていることを既に察している。
まだ幼いながらも、衛は陰陽師のナンバー2だ。もちろん、トップは法明である。
だが、法明に次ぐ実力の持ち主であり、その力は誰もが認めるところで、留城の守備を任されていた。
まだ戦略面では指揮に頼りなさはあるが、まさに実の意味での常在戦場である今の和国では、経験は嫌と言う程積める。
大人は既に大勢死んでおり、まだ子供であろうと、優秀な人材を遊ばせておける余裕は、今の人界軍――妖獣側の獣界軍と対になる俗称――には無かった。
◆
「お前もか……椿もそうだった。余程面倒なことが待ち受けているのだな……」
「あ、はは……椿様は、なんと?」
「『全員を集めて説明する』とだけ。だが、声は明るかったな」
「なるほど……では、僕は椿様のお考えに従いますね」
「お前……まぁ、いい。もうすぐわかるしな」
ちゃっかり椿を盾に逃げている。賢しくはあるが、ここで衛に無理矢理吐かせる程の重要性は感じないので、少し非難じみた視線を注ぐだけにしておく。――衛は、全く気にしていないようだが。
留城の大門をくぐり、法明達は本丸へと向かう。やがて、石の階段を上がり、その先の門を抜け本丸内に至った。
そこには――
既に四十人程度が本丸内広場に整列していた。皆、将軍クラスであり、主だった諸将を召集したのだろう。
そして、法明達を見つけ、笑顔の姫様達がこちらに駆け寄ってきた。敬愛してやまない主君の無事な姿に、堅物の法明ですら頬が緩んでしまう。その場に跪き、部下共々礼を取る。
「姫様、ただいま戻りました。ご無事で何よりです」
「法明達こそ、忙しいところごめんなさい。よく戻ってきてくれました」
「皆、お疲れ様~♪」
姫様達の表情は明るかった。富央城が落ちて以来、無理して笑っているのがわかり心苦しかったが、椿同様、今は本来の明るさに戻っている。
(“誰だ”…………? 一体、誰が)
法明は、その“原因”――姫様達や椿の頼りとする者――を探し、周囲を見回す。
だが、法明が見つける前に、イワナガヒメから答えがもたらされた。
「実は、わたくし達にお味方下さる、頼もしい方々の紹介があるのです。――神楽様!」
イワナガヒメが後ろに振り返り、元気にその名を呼ぶ。すると、気の抜けた返事と共に、椿に引き連れられて、立ち並ぶ諸将が左右に空けた道を、とある集団が歩いてくる。
――それは、強力な気配を漂わせる複数の神獣を連れ歩く、摩訶不思議な銀髪の少年だった。




