【第五部】第二十九章 三つ目の条件①
――留城・三の丸・屋敷――
神楽は、参戦条件としてあげた三つのうち、最後の条件についてイワナガヒメ達に説明を始める。これが一番やっかいな条件なのは、神楽としても理解していた。
【三つ目の条件】
『敵の妖獣の中で戦意を喪失し、なおかつこちらに降伏し従順な態度を取る者達は、俺達に処遇を委ねてもらう』
「要するに、捕虜の扱いはこちらに任せてもらう――ということだ。俺の一族――“御使いの一族”が妖獣と共に生きる一族だというのは説明したはずだな?」
「ええ」
また何か言いそうな彩乃の前に、イワナガヒメが返事をする。
「俺は、姫様や椿達に生きていて欲しい。そのために人々の住める環境を守るために戦う。だけど、妖獣を滅ぼしたい訳じゃない。鬼共に無理矢理言うことを聞かされている奴らだっているだろう。そういった奴らの扱いは、こちらに預けてもらう」
「具体的に、お前はそいつらをどうするんだ?」
椿が椿らしく、直球に聞いてくる。話が早くて助かる。
「これは向こうの承諾ありきの話だが……中つ国に逃がす。断られたら、本州に逃がす。――地図では、南に“本州連絡大橋”もあったはずだ。壊れてはいないんだろう?」
「バカな!? ――まったくもってバカげている!! 鬼に従わされているとはいえ、我々の仲間を幾人も殺してきた奴らを、生かして逃がすと!? そいつらが逃げた先でまた従わされて襲ってくるだけではないか!!」
今の今まで我慢していたのだろうが、彩乃がついにキレた。今にも神楽に襲いかかってきそうだ。
姫様達や椿も、彩乃に近い心情なのだろう。彩乃を止めない。神楽だって、そのリスクは考えている。だが――
「中つ国が預かってくれれば、まずそんなことにはならない」
「どうして言い切れる!?」
「向こう――四神獣達とは馴染みがある。自分達から戦争をけしかけることはない」
そう言い切る神楽に、彩乃がなおも言い返そうとするが、その前にイワナガヒメが返す。
◆
「では、本州ではどうでしょう? また従わされて、ここ北州に襲いに来やしませんか?」
「それなんだが……妖獣達を逃がした後は、本州に逃がすにしても逃がさないにしても、大橋は、破壊ないしは使えない状態にするつもりだ」
「まぁ、そうだな。橋が使えれば妖獣共がまた北州に襲いくるのは目に見えているしな。――だが、封鎖ではダメなのか?」
「封鎖が完璧ならそれにこしたことはないけど……無理だろ?」
橋を壊せば人々も本州には行けなくなるから、悩ましいのだろう。だが、北州での戦争を終戦させるためにはこれは必須だ。椿も頭をかき――
「――まぁ、現実的ではないか」
「本州に渡りたければ、大きな船を造りましょう? わたくしも、橋は使えなくすべきと考えます」
イワナガヒメは賛成してくれた。椿も渋々ながら納得する。だが、彩乃は――
「本州での生き残りがまだいるかもしれん!! 橋が使えなければ、逃げてこられないではないか!!」
皆が気にしつつも直接言葉にしなかったことを口にする。――そう言われると、神楽としても残酷な言葉を返さざるを得ない。
神楽は内心ため息をつきつつも、彩乃に相対した。




