【第五部】第二十八章 いざとなれば退かせてもらう
――留城・三の丸・屋敷――
神楽が姫様達に、三つの参戦条件を切り出すと、コノハナサクヤヒメの侍女が急に立ち上がった。
「黙って聞いておれば図に乗りおって!! 窮地になれば“自分の判断で手を退く”だけでも図々しいのに、その上、“奴らの捕虜は預けろ”だと!? ふざけるのも大概にしろ!!」
「彩乃。ひかえなさい」
神楽に暴言を浴びせる侍女――彩乃を、コノハナサクヤヒメが強引に下がらせる。先程までの照れた顔はそこになく、今や真剣そのものだ。
主人の命には逆らえず、渋々ながらも彩乃は引き下がった。
「訳を……お聞かせ頂けますか?」
困ったように、イワナガヒメが眉をハの字にして神楽に笑いかける。
――もちろん、神楽としても正直に全て話すつもりだ。
◆
「一つ目――は、いいか。まず、二つ目の条件についてだな」
【二つ目の条件】
『俺達は全力で戦うが、死ぬまでは戦わない。“これ以上はどうしようもない”と判断したら退く。その判断はこちらに任せてもらう』
「俺達には、この戦いに元々命を懸ける動機が無い。そちらに協力はするが、“仲間は死なせない”。そのための保険だよ」
言葉足らずな神楽のフォローをしたのは、椿だった。
「姫様。彩乃。この者は決して、調子だけで参戦すると言っている訳ではありません。皆が来るまで、私は神楽とその仲間達の話し合いを見ていました。――私達の前であえてこれを宣言したのは、“誠実であろうとしている”ため。それだけ、神楽にとって“仲間や約束は大切”なのです」
まだ会ってそんなに経ってなく、しかも最悪の出会い方をしたのに、神楽が伝えようとして出来ていないことを正しく理解してフォローしてくれる。――本当に、椿は自分と似ているのかもしれない。
神楽は、緊張した場ではあるが、椿を見ながら少しだけ微笑んだ。そんな神楽をじっと見つめていたイワナガヒメが答える。
「信じましょう」
「姫様!?」
イワナガヒメの承諾とも取れる発言に、思わずといったように彩乃が反応する。イワナガヒメは、そんな彩乃に笑いかける。
「考えてもみてください。この方々には、本来、全く関わりの無い戦なのですよ? わたくしが無理を言ってお願いしたのです」
「で、ですが……」
「彩乃。“助力”を頼んだのですよ? “自分達と死んでくれ”など、それはただのワガママです」
イワナガヒメがそこまで言うと、彩乃も渋々ながら納得したようで、「失礼しました……」と頭を下げて引き下がった。――ジロッと神楽をにらむのも忘れずにした後、元の位置に座る。
とにかく、二つ目もいいってことだな。じゃあ、問題の三つ目だ。
神楽は小さくため息をつき、三つ目の条件についての説明を始めた。




