【第五部】第二十六章 姫様達の来訪
――留城・三の丸・屋敷――
神楽の悩みながらの宣言に、今度は皆が笑って頷いた。皆が参戦する。――皆を危険に巻き込む以上、中途半端は無しだ。
神楽は、今までの一連の流れを壁際の少し離れた場所で黙って見ていた椿に振り向く。椿は、なんとも言えない、困ったような顔で笑っていた。
「こんな時、なんて言えばいいんだろうな……お前達をこちらの事情に巻き込むことを申し訳なく思うが、助力は頼もしい」
「なんだ……俺と同じか。いいよ、気にしなくて。――ん? こういうことなのか? 立場が変わると、やっぱ言うことも変わるな」
また目の前で悩み出す神楽の前で椿がぷっと吹き出した。
「あはは! そうだな。私達は、似た者同士かもしれん。――神楽。宜しく頼む」
「ああ。こちらこそ」
椿が差し出す手を神楽が握り返す。二人とも、笑顔で笑い合っていた。が――
――『じぃ~~~~~っ』と見つめてくる視線をいくつも感じた。振り向くと、皆が示し合わせたようにジト目だ。
「な、なんだよ」
「べっつに~! ほら! ご主人! 決めたならさっさと、そのお姫様のところに言いに行くにゃ!!」
皆を代表するかのように琥珀が前に出て、神楽の腕をつかむ。強引に引っ張られそうになるが、椿が『待った』をかけた。
「ま、待ってくれ! 流石に本丸はマズい! お前達は神獣なのだ!! そして、私達にとって、妖獣は敵でしかなかったのだ。――姫様達をお呼びしてこよう。お前達はここで休んでてくれ」
それだけ言うと、慌てたように椿が屋敷を出て、本丸の方に向かって歩き出すのだった。
◆
しばらく待つと、約束通り椿が姫様達を連れて戻ってきた。
すると――
「神楽様! ありがとうございます!!」
「――お、おぉっとぉ!?」
イワナガヒメは屋敷に入り神楽を見つけるやいなや、嬉しそうに駆け寄り神楽の手を取りはしゃぎだした。神楽も無下にはできず、されるがままだ。
――またジト目の嵐だ。だが、今回は椿も加わっている。
どうしようかと神楽が悩んでいたところ――
「はいはい、姉様。話をしに来たんでしょ?」
「そ、そうでした! 嬉しくて、つい……すみません、神楽様」
「い、いや、気にしなくていいよ……うん」
いつの間にかコノハナサクヤヒメが近くに来て、神楽とイワナガヒメの手を引き離す。イワナガヒメは言葉通り、思わずやってしまったとばかりに顔が真っ赤だ。自分の両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまった。神楽もいたたまれなくなり、ポリポリと頬をかく。
「さ! じゃあ、お話しましょ!♪ ――ほら、姉様も」
「う、うぅ~……恥ずかしいです」
「神楽。貴様……まさか、“姫様が狙い”ではあるまいな?」
「俺は何もしてないだろ!?」
騒がしくなりつつも、話し合いの準備を始める。唯ともう一人、袴姿の女性も来ていた。椿と同じ侍だろうか。腰に帯刀している。
その女性はコノハナサクヤヒメに付いているので、侍女なのかもしれないな。
唯が皆にお茶を配ってくれたタイミングで、神楽は姫様達に、先程決めたばかりの参戦の意思表示を切り出すのだった。




