【第五部】第二十五章 覚悟
――留城・三の丸・屋敷――
神楽の参戦宣言に、皆が頷く。だが、今回は中つ国の時とは違う。
あの時は、大戦の“未然防止”が目的だった。そして、縁や運に恵まれ、大戦が起こる前になんとか主犯のマスカレイドから青龍を奪還することが出来たのだ。
だが、今回は既に大戦中だ。しかも明らかに人間側に加担することになる。それは、人間と妖獣の調和に尽力する“御使いの一族”の掟に反するし、前例も無いだろう。
掟破り自体はそれ程気にしていないとは言え、バレたら破門になる恐れもある。そうなれば、春や楓が傷付くことだろう……。
それに、エーリッヒ達を巻き込むのは間違っている。和国に縁もゆかりも無いし、本来の目的は“ピオニル大陸への潜入調査”だったのだ。
そのため一緒に航海してたのに、急に発生した渦潮に巻き込まれたトラブルで、なし崩し的にこうなっている。――それを言うならクリスもだが。
――だから、神楽は……。
◆
「エーリッヒさん、ラルフさん、レインさん、クリス。俺は、今回の戦いに四人を巻き込むのは“違う”と思ってる。――それを言ったら、琥珀達もなんだけど……」
神楽が、まとまらない頭ながら、何とか言葉をひねり出していく。皆は、黙って聞いていた。
「なんと言うか……。中つ国の時とは事情が違う。あの時は、大戦が起こるのを防ぐための戦いだったけど、今回は既に大戦中だ。それこそ、いつ死んだっておかしくない。そんな戦いに、俺の都合で皆を巻き込むのは違うと思うんだ。俺や琥珀達はまだ、和国出身ってこともあって、この国との縁もあるけど、四人は違うだろ? 見ず知らずの国で、そこの人達のために命をかけるのは――」
神楽がそこまで言ったところで、レインがふと立ち上がった。何も言わずに、顔を伏せながら神楽の元へ歩いてくる。
(――え!? ぶたれる流れ!? これ!?)
神楽がビクビクしながらレインを見つめていると――
「――ふが!?」
「……私達は、“仲間”。仲間は、運命を共にするもの。――違う?」
レインが神楽の唇を指でぎゅっとつまみながら、ジト目で神楽を見上げてくる。そこに、エーリッヒとラルフが続いた。
「レインの言う通りだよ。青姫や君達だけを危険にさらすつもりはない。“一蓮托生”ってやつかな? それに、考えてもみなよ。“青ノ翼”は青姫がモチーフなのに、その青姫を見捨てて死なせたら、一生後悔するでしょ」
「だな。青姫だけじゃなく、お前らもだけどな。――勝手に死なれちゃ寝覚めが悪くなるだろうが」
エーリッヒがやれやれと言うように肩をすくめながら、ラルフが頭をガシガシかきながらそんなことを言う。そして――
「私も……な、仲間だから。助ける。――カグラは私を助けてくれたしね」
赤い顔で照れながらクリスも言う。
神楽は、嬉しさと申し訳なさで、また想いの板挟みとなる。
(俺が決めた……決めたんだ。でもそれは、仲間の運命をも左右する、重大な“決断”だ。だから、俺は――)
神楽は悩みながらも、“覚悟”を決めた。
「俺は、ワガママなんだ……。皆に死んで欲しくないのに、姫様や椿達も死なせなくない。矛盾ばかりだ。――でも、“約束する”。俺は、“最良だと信じる未来に向けて全力を出す”。だから皆も、頼りないとは思うが、力を貸して欲しい……」




