【第五部】第二十四章 宣言
――留城・三の丸・屋敷――
神楽達は、留城の三の丸にある屋敷に招かれた。三の丸は昨日招待された本丸から離れた位置にあり、屋敷の質もだいぶ落ちた。
神楽、クリス、稲姫、琥珀、青姫、蛟、エーリッヒ、ラルフ、レイン。総勢九名が住むには、まぁなんとかと言う広さで、とりあえず急場で用意してもらったから文句を言ってはいけないだろう。
妖獣勢はもちろん人化してもらっている。尻尾などは、外に出る時には隠すことで話は付いている。
なんとか椿を落ち着かせて海岸部で事情を説明した際――
「なんでこうも神獣ばかり……。しかも、“龍”だと? これは悪夢か?」
とか言いながらも、直ぐ様船の保護と皆を城へ誘導し屋敷を手配するあたり、戦闘だけでなく事務面も有能だった。
――何故本丸から離れているか?
流石に、妖獣と戦争中の今、四体の神獣が本丸に来たら乗っ取られると思うだろう。余計ないざこざを避けるために離れた三の丸を選択したのは、椿の慧眼に感謝したいところ。
そして、屋敷で腰を落ち着けた今、椿監視のもと早速話を始める。
神楽は、昨晩の本丸大広間での話し合いの顛末を皆に話して聞かせた。
◆
「ご主人の好きなようにするといいにゃ」
「うむ。琥珀に同じじゃ」
「わっちも、主様に付いていくだけでありんす」
妖獣三人娘からは即答だった。昨晩、寝付けずに考えていた時に想像した通りだ。それが嬉しくもあり――辛くもある。
「儂も神楽の判断に従おう。――だが、迷っているのだろう? “一族の掟”を気にしているのか?」
蛟は全てお見通しのようだった。――だが、少し違う。
「掟は……まぁ、気にすべきなんだけど、一度殉職してるようなもんだからな、俺は。あまり気にしちゃいない。――それよりも、お前達の力を借りて、お前達の同胞を傷付けたくない」
神楽が絞り出すように言う。
だが――
「なんだ、そんなことか。儂のことは気にせずともよい」
「うちは元から一匹狼ならぬ“一匹猫”にゃ! 全く気にしてないにゃ」
「わっちも。他の妖獣に仲間はいないでありんすから」
「わらわは、そうじゃなぁ……。同族が混じっておったら気まずいが、人間を駆逐しようとする奴らなどとは気が合いそうもない。それに、流石にここは里から距離があり過ぎるから、同族はおらんじゃろうて。気にしなくてよいぞ?」
「お前達…………」
神楽の心配など、全く気にかけていないようだった。――それに救われた。
「しかし、中つ国の次は和国で大戦か!! 腕がなるな!!」
「いや、まだ参戦は決定してないから……」
「……でも、もう答えが出てるみたい」
ラルフ、エーリッヒ、レインも拒否はしていない。
――ラルフに至ってはやる気満々だった。エーリッヒはともかく、レインは神楽の宣言を待っているように思う。
「私も……いいよ。カグラの好きにして」
クリスからも同意が得られた。相反する想いの狭間で苦しむ神楽を、今回一番近くで見てきたのはクリスだ。どことなく、その顔は嬉しそうだった。
――そして、意を決し、神楽は宣言する。
「生存権をかけた争いで、片方に加担するのは一族の掟に反しているとは思う。――だけど、妖獣だけがそこで生存を許されるというのも違うと思う。俺が目指すのは、あくまで“共存”だ。矛盾していようが、今はここの人達を助ける!!」




