【第五部】第二十二章 琥珀参上!
【翌朝】
――和国・北州・北部海岸部への道中――
翌朝。給仕された朝食を取り、神楽はクリスを連れて外に出た。後には、椿が付いてきた。逃走防止と言うよりは、よそ者が余計なことをしないよう、念のための監視のようなものだろう。
「私も暇じゃないんだがな……」
椿が小さく不満を漏らす。戦時中で戦の備えもあるだろうに、急がしい中巻き込んでしまったのを神楽は申し訳なく思う。
だが、神楽の読みが正しければ“琥珀が突っ込んでくる”。城を壊したら申し訳ないし、『壊した分、働いていけ』と言われるかも――つまりはそれをきっかけに戦わされるかも――しれない。
イワナガヒメはそんなことを言わないだろうが、周りは言いそうな気がする。なしくずしで戦うのだけは嫌だった。
「すぐ済むよ――たぶんな」
「そうか。なら手早くな」
ふわぁと椿が口元を手で抑えてあくびをする。疲れているのに申し訳ないが、見晴らしのいい海岸に出た方が良さそうなので、もう少し我慢してもらう。
やがて、目的地に着いた。
◆
――和国・北州・北部海岸部――
「お前達が流れ着いた場所か。何をするんだ?」
「はぐれた仲間を呼ぶんだよ。――あ、今から稲姫を出すけど、絶対に攻撃するなよ? “馳せ参じるだろう仲間にも”」
「? わかったわかった。早くしろ」
椿が手をヒラヒラと振る。
(ほんとにわかってるんだろうな?)
だが、疑っていても埒が明かないので、神楽は早速、自分の内側に意識を向ける。
(稲姫。いいよ?)
(ほ、ほんとに大丈夫でありんすか?)
<憑依>で神楽の内に宿る稲姫からは、不安そうな声が。『絶対に大丈夫!』とは言えないのが辛いところ。
(………………)
(そ、そこは勢いでも、『俺が守るから安心しろ!』って言って欲しいでありんすよ!!)
稲姫が、似てない神楽の声マネをしつつ抗議してくる。
(俺が守るから安心しろ!!)
(ぜ、絶対でありんすよ……?)
しぶしぶながら納得する稲姫。やがて、神楽の身体が黄金色の光に包まれ、稲姫が胸元から飛び出してきた。出てきた瞬間、急ぎ神楽の背中に隠れる。
稲姫がおそれる当の椿はと言うと――
「どんな仕組みなんだ? ――いや、だから攻撃はしないとさっき言っただろう?」
『昨日はいきなり殺しにかかったくせに』とは思えど口にはせず、神楽と稲姫は、ただジト目で椿を見つめるのだった。
やがて――
「やっと見つけたにゃあ!!」
「――曲者っ!?」
「待て待て待てぇ~~~いっ!! ――だから、“馳せ参じるだろう仲間にも”って予防線を張っておいただろうが!?」
――琥珀参上!
前みたいに、どこからともなく現れた。驚いた椿が刀の柄に手をかけるのを、神楽は慌てて押しとどめる。琥珀はご機嫌に稲姫を抱き締めている。
琥珀の稲姫レーダーが機能したのだろう。前に気になって仕組みについて琥珀に尋ねてみたが、『よくわからないけど、稲姫ちゃんの居場所ならわかるにゃ♪』とだけ笑顔で答えていた。
白虎や雷牙達が持つ“共感覚”みたいなものだろうか? なんで種族の違う稲姫が対象なのかはわからない。
(まぁ、琥珀だしな)
大抵の疑問はそれで放り投げられる。
ともかく、琥珀と合流できてよかった!




