【第五部】第二十一章 葛藤
――留城・本丸・大広間――
『今日はもう休め。侍女が世話に来るだろう。足りない物があれば、遠慮無く言え』
神楽とクリスを客間に案内した椿は、それだけ言うと立ち去った。
重苦しい雰囲気の中、クリスと二人で夕食を食べ終え、別々に風呂を済まし、布団を並べて明かりを消した。
クリスも別の布団で横になっている。疲れたのだろう。だが、神楽と同じで中々寝つけないようだ。寝息は立っていない。
琥珀達は無事だろうか。<念話>が使えないため、連絡が取れない。
そう言えば、再会してからいつも一緒だったなと思い返す。
稲姫は神楽の中で休んでいるみたいだ。今は<憑依>で神楽の中にいるが、気配でわかる。
仲間達のことを考えると、胸が温かくなる。妖獣だろうと、神楽にしてみれば“家族”のようなものなのだ。
だが――
◆
(あの涙はズルいよ…………)
イワナガヒメの涙が頭から離れない。神楽が稲姫達妖獣を家族として大事にするように、イワナガヒメにとっては、椿達皆が大事な“家族”なのだ。でなければ、あの涙は無かっただろう。
(蛟……こんな時、お前だったら何て言うかな?)
昔から、蛟は神楽に適切な助言をしてくれた。神楽の意思を尊重した上で、選べる最適な道を指し示してくれた。
神楽は首を振る。本当は、わかっているのだ。蛟だけじゃない。琥珀や青姫、稲姫達がなんて言うかは。
『神楽のやりたいようにやれ。自分は、人間のではなく“神楽の味方”だ』
(わかってる。わかってるんだ……。本当は。だからこれは、俺の覚悟が足りないだけだ)
――“人と妖獣の仲をとりもつ”という、“御使いの一族”としての誇りや覚悟。
――“困ってるイワナガヒメ達の力になりたい”という、神楽個人としての想い。
相反する想いで、頭の中はグチャグチャだ。
だが、どうするかを決めたとしても、仲間にそれを伝えるのは絶対だ。自分の想いを伝え、行動に責任を持つ。
そのためにも、明日は何としても琥珀達と合流しなければいけない。だが、どうやって……。
<念話>を使わずに居場所を伝える方法なんて……。琥珀なら、自分がどこにいようが、探せるような気も。そこまで考えたところで、神楽に“ひらめき”が降りる。
思わず神楽は上半身を起こした。気付いたクリスが神楽の方を向き、声を掛けてくる。
「どうしたの?」
「あったんだ。皆――いや、琥珀に居場所を伝える方法が!」
神楽は自身の胸元を手で抑える。
ひらめきのヒントは、すぐそこにあった。




