【第五部】第十九章 お願い
――留城・本丸・大広間――
神楽が説明を終えると、場が騒然とする。
「バカな……! では、今までの犠牲は、すべてその帝国とやらが原因ではないか!!」
「待て! この小僧の話だけを鵜呑みにするのは危険だ!」
「だが、こっちに妖獣を襲いまわる動機なんてなかったんだ。第三者の介入があったという方がしっくりくる……」
皆、いきなり告げられた真相に戸惑っているのだろう。目の前のイワナガヒメや椿ですら、どう飲み込んでいいものか困惑しているのがわかる。
隣のクリスは座りが悪そうだ。その主犯組織――マスカレイドに所属していたんだ。無理もないだろう。ソフィア曰く、クリスは神楽の後に合流したそうだが、その詳細なタイミングまでは聞いていない。
それに、あそこでは自由意志は認められなかった。関与していたとしても、クリスの意志ではないだろう。動機が無い。ならば、憎むべきは、“博士”率いる研究部門とその背後にいる帝国だ。
それに、クリスは今や、神楽達の“仲間”だ。航海の案内役としてという理由もあるが、ソフィアを助けに行くという目的も一致しており、神楽自身が仲間として受け入れた。ならば、“守る”対象だ。
クリスが余計なことを言ってピンチにならないよう、十分に警戒する。
◆
「みなさん、お静かに! ――神楽様、貴重な情報を提供下さりありがとうございます。しかし、きっかけがなんにせよ、今もこうして人間と妖獣の戦争は続いており、わたくし達は追い詰められています。わたくし達は、今後のことを決めねばなりません」
心中の動揺を抑え、イワナガヒメが告げる。神楽よりも幼いだろう彼女に、一体どれだけの負担がかかっていることだろう。見るに耐えない。そして、次に放たれる言葉も予想はつく。
――だからこそ、心苦しい。
「神楽様。浜辺でもお願いした通りですが、わたくし達にお力をお貸し頂けませんか? わたくし達は、最期まで抵抗します。その決着が着くまでで構いません。わたくし達と運命を共にして欲しいとは申しません。ですがどうか、わたくし達に、抵抗するためのお力をお貸し頂けませんか?」
そして、イワナガヒメは畳に三つ指をついて、頭を深々と下げるのだった。




