【第一部】第二十三章 仮面達の襲来
――校舎裏――
「ううん、私も今来たとこ――」
クレアからの呼び出しを受け校舎裏の木の下に来たアレンは、いつの間にかあやしい奴らに囲まれていた。皆同じ仮面をつけている。
数は、――五人か。目の前のクレアもいれたら六人だが。
「主様!」
輪の外、離れた場所から、いつの間にか狐から人化していた稲姫が焦ったように大声で叫ぶ。
良かったのか、悪かったのか、アレンと稲姫は離れてしまっている。アレンは一瞬だけ稲姫に視線を向けた後、目の前のクレアに向き直った。
「何が狙いだ?」
「それはね――」
クレアが口を笑みに形作りながらそう言い、――ふと意識を失ったように倒れ込む。
「この子よ」
クレアの言葉を継いだのは、いつの間にか稲姫を背後から羽交い絞めにしている、仮面をつけ黒いローブを着た女だった。
稲姫が口をおさえられながら、ジタバタともがいている。油断した! どこかにもう一人潜んでいたのか! すぐに稲姫のもとに駆け付けるべきだったと後悔するが、それよりも――
「貴様ぁっ!!」
稲姫に手を出された怒りの方が大きかった。アレンはすぐに稲姫と女のところに駆けつけようとするが――
五人の仮面をつけた者達に行く手を遮られた。
◆
「邪魔だ!」
アレンはすぐさま武技<豪撃>、<金剛>、<瞬迅>を全力発動して身体強化し、突破を試みるが――
「くっ!」
ナイフを取り出した仮面達の猛攻により、素手のアレンは思うように踏み込めない。
双剣さえあればと思うが、無いものねだりをしても仕方無い。なんとか打開を試みるが手が足りず、焦りが募るだけだった。
稲姫を抱えた仮面の女が背を向けてそのまま歩き去ろうとする。
「待て!!」
もう二度と奪われてたまるか! アレンは仮面の女に<ウィンドカッター改>を放とうと手を向けるが――
その致命的な隙をつき、背後から別の仮面が切りかかってきた。
(――これはかわせない!)
万事休すかとアレンが覚悟した、ちょうどその時――
◆
「<創造―岩人形―>!」
間一髪のところで岩人形が間に入り、仮面の攻撃を受け止めた。
「アレン! 無事か!?」
声のした方にアレンが振り向くと、カールがいた。エリスもいる。アレンを挟み、二人は仮面の女とは反対方向にいた。
「カール! エリス! 助かる!! 稲姫が連れ去られそうだ! あの女を止めてくれ!!」
アレンは仮面の女を指差した。
「――<ファイアウォール>ッ!」
エリスが、稲姫を連れ去ろうとする仮面の女の前に炎の壁を発生させる。女が慌てて後ろに飛び退った。
「やれやれ。『一人で来るように』と、手紙には書いておいたはずだけど?」
女は余裕を崩さない。エリスから連発される<ファイアウォール>を巧みにかわしていく。
カールがゴーレムを操りながら、エリスが<ファイアウォール>を次々に生み出しながら、こちらに近づいてくる。
だが、二人も武器を持っていない。接近戦はできないだろう。ならば、やはりここは俺が自力で切り抜けるしかない。
◆
アレンは周囲の魔素を操作しイメージする。
――現すは暴風。自分を中心に竜巻を発生させるよう、魔素の流れを組み上げる。凝縮されて緑色に発光する風属性の魔素が、アレンの周囲に渦巻いた。
「<トルネード>ッ!」
たった今編み出した魔法を発現させる。アレンを中心に竜巻が立ち上り、周囲の仮面達を吹き飛ばす。
仮面達はダメージから、すぐには起き上がれない。
「まさか……力を取り戻しているとでも言うの?」
驚いたように仮面の女がアレンを見つめ、――そして、胸元に抱えている稲姫を見た。
「やはり、貴方達は危険だわ」
そう言うと、仮面の女はローブの内側から、何かの石を取り出した。手のひら大の大きさで、薄青く輝いている。
アレンがすぐに距離を詰めようとするが――
仮面を付けた奴らが新たに七人現れてアレンの周囲を取り囲んだ。初めから補充要員として隠れていたのだろう。
「また吹き飛ばしてやる!」
アレンはまたトルネードを発現させようと魔素を自分の周囲に集めるが――
◆
「遅いわ」
仮面の女が手に持つ石を稲姫に向けると、稲姫が光となり吸い込まれて消えた。
途端にアレンの周囲に集まっていた魔素が霧散する。それと同時、七人の仮面が襲い掛かってきた。攻撃をいなしながらアレンは大声で女に問いただした。
「貴様! 何をした!!」
「いやぁ~ねぇ。ちょっと封印させてもらっただけよ」
女が口元に手を当て、石を掲げるように見せつけながら勝ち誇ったように嗤う。
――“封印”か。それで、<魔素操作>が強制解除されたのか……。
「じゃあ、今度こそ失礼するわね。――<プロテクション―ファイア―>」
呪文を詠唱し、自身を光の膜で包む。
エリスの<ファイアウォール>を、自身に炎耐性の魔法をかけることで突破しようとしているのだろう。
カールとエリスを見ても仮面達に襲われ苦戦しており、手を貸してもらうどころか、カール達の方が危ういという状況だった。
――もう絶対に奪われたくないのに!!
アレンは全身全霊で仮面の女のところに向かおうとするが、周囲の仮面達がそれを許さない。様々な角度から代わる代わる攻撃を仕掛けてきて、どうしても突破できなかった。
「稲っ、姫――!」
アレンの差し伸ばした手が空をつかむ。
仮面の女が笑みを浮かべながら歩き去ろうと後ろを向いた、ちょうどその時――
――何かが視認できない程の高速で飛来し、仮面の女が手に持つ石を粉々に粉砕した。




