【第五部】第十五章 留城
――和国・北州・留城への道中――
神楽とクリスは浜辺から城に案内されている。その間、はぐれてしまった琥珀達仲間との<念話>を試したが、何度試しても上手くいかなかった。
椿に聞いたところ、『結界のせいだろう』とだけ答えがあり、確かに周囲の魔素が乱れているのを感じていたので一応は納得する。困るんだが如何ともし難いので、とりあえずそのまま付き従うことに。
向こうは船があるし、それに万一の場合でも蛟がいるから、何とかしてくれているに違いない。――むしろ、危ないのはこっちの方だろう。
神楽は目の前を歩く姫様の背を見ながら、小さくため息をつくのだった。
◆
やがて城が見えてきた。思ったよりも近かったみたいだ。まぁ、姫様をこんな少数の手勢でそんなに遠くまで連れ回したりしないか。
いつの間にか、クリスが神楽の服の裾をつまんでいる。
「――クリスさん?」
「へ? ――ち、ちがうから! これは!?」
自覚していなかったのだろう。顔を真っ赤にして手を離す。しかし――
(心細いよなぁ、そりゃ。――俺がしっかりしないとな)
神楽は気を引き締め直すのだった。
◆
――留城――
「姫様!」
「ただいま戻りました」
狩衣を着た少女が満面の笑みで姫様を出迎えに城の中からパタパタと走りよってきた。姫様もニコニコと嬉しそうに応対している。
そして、ようやく気付いたのか、狩衣の少女の目が神楽とクリスに止まった。
「ど、どちら様でしょう?」
「俺は神楽。遭難者だ」
「私はクリス。右に同じ」
「はぁ……唯。後で皆も集めて説明する。今は通してくれ」
「か、かしこまりました!」
椿が言うと、狩衣の少女――唯は納得したらしく、皆を城の奥へと連れて入る。神楽達も通される。クリスは城が珍しいのかキョロキョロしっぱなしだ。――まぁ、和国の城は珍しいかもな。
◆
――留城・本丸・客間――
神楽とクリスは留城の客間に通された。準備が出来たら呼ぶとのことで、しばしの休憩だ。
「はぁ~……。畳はいいのぅ~……」
「これ、“タタミ”って言うんだ。やわらかいね」
ツッコミ役はいない。神楽がそのまま畳の上に寝転がると、クリスも真似したくなったのだろう。こてんと同じ様に寝転がった。
ふと、客間の襖が開く。
「ず、ずいぶん慣れていらっしゃいますね……」
現れたのは、侍女だろう。お盆にお茶と菓子を乗っけている。気が利くじゃないか。
「おお。わざわざ悪いね」
「いえいえ。――和国にお詳しいんですね?」
「昔はいたからね」
「え? でもお髪が……」
侍女が神楽の銀髪を見ながら不思議そうに言う。――まぁ、そうだよな。
「うん、まぁ。色々あってね。元は黒かったんだよ」
「し、失礼しました!」
謝る侍女に神楽は軽く手を振る。クリスは研究施設を思い出したのか、少し寂しそうだった。――きっと、ソフィアのことを考えているんだろう。
侍女とちょっとした旅話で盛り上がっていると、襖が開き、椿が現れた。
「……随分寛いでいるな。――いや、いいんだが。とにかく、姫様がお呼びだ。付いて来い」
「へいへい」
相変わらずの強引さで、神楽とクリスは姫様達の待つ大広間へと案内されるのだった。




