【第五部】第十三章 敵意
――和国・北州・北部海岸部――
――参った。
“中つ国”国王曹権の提案を発端に、“ヴィシレ帝国”のある“ピオニル大陸”に向けて神楽達が船で航海をしていたところ、急に発生した渦潮に巻き込まれ、稲姫とクリスが船から海に投げ出された。
クリスはピオニル大陸出身だからガイド役として来てもらっていた。――が、それはいいとして、おぼれながら渦潮の中心に流されていく稲姫とクリスを助けるため海に飛び込んだ神楽は、皆とはぐれてしまった。
航海前に蛟との縁を結び直していたおかげで、蛟の力を存分に使うことが出来たので、神楽は自由に海中を泳げた。
そして、おぼれる稲姫とクリスを助けて、なんとか海岸まで泳いで来たわけだ。研究施設で肉体強化されていたクリスは間も無く目を覚ましたが、稲姫は意識不明だった。
慌てて人工呼吸をして体内の水を吐き出させ、なんとか稲姫が意識を取り戻した矢先。刀を抜いて殺気立つ奴らが、神楽達――特に稲姫を見て声を荒げながら近付いてきた。
急ぎ稲姫を背に隠し、そいつらと相対してるのが今の状況。
(いきなりどんだけピンチの連続なんだよ!?)
神楽は左手で頭をかきむしった。
◆
「何故妖獣をかばう!? お前も化けているのか!?」
「違う! 俺と――クリスは人間だ! で、この稲姫は俺達の“仲間”だ!!」
相手は五人。いずれも刀を構えながらこちらを睨んでいる。神楽は聞かれたから素直に答えたが――
「――仲間? 今、妖獣が仲間って言ったのか?」
「そうだよ! 悪いか!!」
「悪いに決まっているだろう?」
相対している奴らとは別方向からの声に、神楽はとてつもない殺気と嫌な予感を感じた。
「稲姫! <憑依>っ!!」
「――――っ!!」
まさに間一髪。稲姫が神楽の中に入り込んだその一瞬後に、何かが稲姫のいた場所の砂浜を抉った。盛大に砂が舞い上がる。
神楽は背負っていた“神槍グングニル”を急ぎ構えた。すると――
「――どこに隠した? 出せ」
「いきなり何なんだよお前達は!?」
「カグラ!!」
「クリスは手を出すな!! 事態がさらにやっかいになる!!」
神楽は目の前の侍女に向け神槍グングニルを構えながら、クリスに指示を飛ばす。他の奴らは、幸い、襲って来るつもりはないようだ。いや――
「椿様! 私達も!!」
「いや、こいつは強い。私だけで――殺ル!!」
椿と呼ばれた少女がそう言った瞬間、いつの間にか目の前に。神楽は、航海前に“宵の明星”ガイルから教わった槍術と琥珀の<肉体活性>を使って、その高速連撃を何とか凌ぎ切る。椿が瞠目した。神楽はバックステップで距離を取る。
「――何者だ? 貴様は」
「殺しに掛かってから聞くなよ!? ――いや、今すぐにでも和解したいからいいけどさ……」
椿が神楽を警戒しつつも、隙を伺うように左右に移動する。
(何なんだよ!? なんで、こんな“バトルジャンキー”ばっかなんだよ!?)
“宵の明星”のクレハを思い出しながら神楽は心の中で泣く。
そんな時――
◆
「お止めなさい!!」
椿の後ろの方から、一人の少女が走り寄ってきた。立派な着物を着ている。お姫様だろうか?
「姫様危険です! お下がりを!! ――お前達!!」
「はっ!! ――姫様! 危のうございます!!」
やはり姫様だったようだ。椿が姫様をかばうように神楽の視線を塞ぐ。残りの奴らは護衛のため姫様に駆け寄った。
(だがもう、いい加減にしてくれ!!)
「危ないのはお前らだよ!!」
「そうです! この方達は一度もあなた達に攻撃をしてきてませんよ!?」
神楽の心の叫びに合わせたかのように姫様が仲裁してくれる。
それでようやく攻撃が収まるのだった。




