【第五部】第十章 S―01
――帝都城内・謁見の間――
「誰の許しを得て立っている!!」
「うるさいなぁ……。いいだろ? この方が楽なんだ」
怒鳴る宰相に飄々と返すS―01。その場の皆はただ静かに動向を見守っている。
(まぁ、処刑など、こいつが黙って受け入れる訳も無い……か)
バージニアはひそかにため息をつく。普段から眉間にシワを寄せているためアトになるのではないかと常々副長に心配されているが、もう決定的な程にシワを寄せてしまう。アトになったらS―01にその代償を支払ってもらうとしよう。――まぁ、もう死ぬだろうが。
そして、皇帝がようやく口を開く。
「挑むつもりか? この俺に」
――そう。この場の皆が警戒したこと。それは――
S―01が皇帝ウルトロス五世に“帝位決闘”を挑む事態だ。
◆
確かに、S―01にはその権利がある。“バイオ研究部門”で一番の実力者は間違いなく奴だろうし、その力はバージニアも認めるところだ。
常々、民草の噂するところでは、『誰だったらウルトロス五世を下しうるか』が陰ながらささやかれている。
その噂はバージニアの耳にも入っており、民草の評価、『バージニア、テネリ、――もしくは仮面の少年なら』と言うのは、その通りだと思っていた。
魔導兵団団長のテネリは、普段礼儀正しいが何を考えているかわからないところがあり、その実力も底が知れない。十分に警戒すべき対象だろう。
自分バージニアは、戦闘力に自信があり魔大剣フラガラッハもあわせれば、まずまず引けは取らないだろう。ウルトロス五世がよっぽどの特殊技術を開発して当てて来なければ、確実に負けない自信はある。
そのため、民草の中でもバージニアは次の皇帝筆頭候補に挙げられている。
――だが、バージニアにそのような興味は無い。ウルトロス五世が掲げた『新規技術を積極的に取り込み早急に力を付け、魔族に対抗できる力を得る』という国是には共感しているし、まず国を治めることに興味が無い。
ウルトロス五世が日和って方針転換さえしなければ、バージニアに帝位簒奪の動機は生じないのだ。ウルトロス五世はそれをわかっているため、バージニアには積極的に最新技術の提供や試験などを提案してくる。バージニアも力に貪欲なので否やは無い。――要は、相性がいいのだ。
だが、残りの一人――S―01だけは読めなかった。普段から、何を考えているかさっぱりわからないだけでなく、何故この国に来たのかすら不明だ。元和国の半妖で、“和国にいる、とある妖怪の打倒”が目的だとは伝え聞いたが、具体的なところは何もわからない。帝国に来たのは、大方力を求めてだろうか?
――バージニアは“魔族殲滅”を目的としており、力を欲して帝都の近衛騎士団に志願したので、S―01も力を得るために帝国に来たという考えが一番しっくりくる。
そして、皆が見守る中、S―01が言葉を紡ぐ。
「いやいや、そんなものに興味は無いよ。――ただ、僕がいなきゃ、きっと勝てないよ? あいつらにはさ」




