【第五部】第六章 ウルトロス五世
その青年――フレクビリスは近衛騎士団に所属していた。当時の序列は七位。確かに優秀ではあったが、騎士団の中でさえ上にまだ六人もおり、加えて実力者は魔導兵団にもいる。
誰もフレクビリスが皇帝に帝位決闘を申し入れるとは思わなかった。しかし、すぐにそれは驚愕へと変わり、新たな技術革新の幕開けとなる。
◆
――決闘場――
帝位決闘の決着は、始まってすぐに訪れた。地に膝をついたのは、当代の皇帝ウルトロス四世だ。
フレクビリスの持つ剣に触れた者は全て凍りつく。皇帝も例外ではなかった。魔法や新たな魔剣かと思われたが、真相は違った。
「…………なんだ? その武器は……っ!!」
「“魔鉱”って鉱石があるんだよ。魔界との境の山脈にな。それを武器に応用したまでだ。――あんたのやり方はヌル過ぎる。そこをどいてもらおうか」
そして、フレクビリスはウルトロス四世を袈裟懸けに斬り捨てる。派手に血飛沫を撒き散らし、ウルトロス四世は絶命した。凍った足で地に固定され、天を仰ぐような姿勢のまま固まった。
場内はざわめきで満たされる。
フレクビリスは剣の血を振り払うと、声高々に宣言した。
「俺がウルトロス五世だ! これからの帝国は、新たな技術を積極的に取り入れていく! 魔族相手に生温い手段では、いつまで経っても敵うわけがない!! 我こそはという者は俺に続け!!」
場内の一部から熱烈な拍手喝采が飛ぶ。近衛騎士団でも魔導兵団でもない。当時は裏方で研究に勤しんでいた科学者達だった。彼らに釣られるように、次第に拍手が場内を満たしていく。
――これが、ウルトロス五世の誕生と共に、帝国の技術革新の始まりだった。




