【第五部】第五章 ヴィシレ帝国
――帝都城内・謁見の間――
バージニア達騎士団は謁見の間に到着する。大扉の番兵はバージニアに軽く会釈すると、二人がかりで大扉を開いた。
重厚な扉が音を立て開く。バージニアは騎士団員達を引き連れそのまま中へと進み、自分達騎士団の参列場所へと向かった。
参列場所は縦に四区分されている。特に目印があるわけではない。ただ、常の習いとして、所属によって場所が決まっているのだ。
玉座に向かうバージニアから見て右から順に、次の通り並ぶ。
――“魔鉱研究部門”
――“魔導兵団”
――“近衛騎士団”
――“バイオ研究部門”
ここヴィシレ帝国は、皇帝ウルトロス五世によって治められている。
その代の皇帝は、世襲ではない。しかしながら、民主主義に則った、民草の民意をくんだ選出という訳でもない。
――実力と実績。それらにより、自らの後継に相応しい者を皇帝が独断で決める。そして、その者が男であれば“ウルトロス”を、女であれば“ウルトリア”を名乗る。それが帝国での習わしだ。
もちろん、皇帝に取り入ろうとする者も出てくる。過去にもあったことだ。実力無き者が継げば、腐敗することだろう。
だが、帝国はあくまで実力主義。気に入らなければ、クーデターも起こり得る。
そこで導入されているのが、時の皇帝と決闘し勝利することにより帝位を奪い取る闘い――通称“帝位決闘”。
帝国の要人達が見守る中、皇帝は挑戦者と一対一の闘いをする。帝位の争奪というだけではなく、勝者は敗者を自由に扱える。一族郎党皆殺し、追放、飼い殺し。いずれも自由だ。
挑戦権は帝国が正式に定める軍事組織に与えられる。当代では、近衛騎士団、魔導兵団、魔鉱研究部門、バイオ研究部門の四つが対象となる。
魔鉱研究部門とバイオ研究部門は当代のウルトロス五世により新設された組織であり、先代までは近衛騎士団と魔導兵団のみだった。
実際、初代皇帝は自ら定めたこの決闘を実践してみせた。挑戦者は血気盛んで自分の実力に自信を持つ近衛騎士団所属の青年だった。
初代皇帝は圧倒的な実力で挑戦者をねじ伏せ、いつの間に捕らえていたのか、青年の家族や恋人を拘束して連れてきた。
そして、兵達に拘束されながら家族や恋人の命乞いをする青年の前で、無慈悲な“処刑”が執り行われた。
泣き叫ぶも大事な人達を皆殺しにされ、自分も殺してくれと懇願する青年。皇帝は青年は殺さず、国外追放とした。
このように、『負ければ地獄』が国民の意識に植え付けられ、以来、ほとんど挑戦者は現れなかった。たまに現れても、いずれも負けた。
先に逃がしたはずの親族を拘束され目の前で処刑されたり、身内の無い者は公開拷問で人としての尊厳を辱しめられたりと、ろくな末路ではなかった。
だが、帝国歴の中で、一人だけ帝位簒奪を成功させた者が現れる。その者こそが、当代の皇帝――ウルトロス五世だった。




