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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第五部 “和国・北洲の戦い”編①
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【第五部】第一章 落城

 夜半(よわ)の月が煌々(こうこう)と輝いている。だが、人々にそれを愛でる余裕は皆無だった。


 城から火の手が上がり、今も怒号が飛び交っている。


――和国(わこく)北州(ほくしゅう)富央城(ふおうじょう)――



「ここはもうダメだ!! 姫様達をお連れして逃げろ!!」

「逃げるって――どこに!?」


 悲痛な声が上がる。それもそのはず。この城は“()()()()()()()()人々にとっての要衝(ようしょう)であり希望、心の拠り所だった。


 ここが失われては、妖獣共に蹂躙(じゅうりん)されるのは明白。逃げ場など……。だが、男はなおも声を張り上げる。


(あきら)めてんじゃねぇっ!! 北西にもまだ城はある!! イワナガヒメとコノハナサクヤヒメを城に逃がせ!! 退却までの時は俺が稼ぐ!!」


 男が言うと同時、(ふすま)が蹴破られる。そこから顔を出すのは、牛の頭をした人型の鬼――“牛頭(ゴズ)”だった。



「ガハハッ!! 虫けら共がまだいたか!!」


 牛頭が嬉々として笑い声を上げる。その右手には巨大なこん棒が握られており、赤い雫がポタポタと畳にしたたり落ちていた。


「早く行けっ!!」


 男が牛頭に向かい刀を抜く。仲間達は男に加勢しようとするも、男から叱咤の声をかけられ足を止める。


「“今為すべきことを成せ”っ!! ――さっさと行かねぇかっ!!」


「ごめん――なざいっ!!」

「済まない……っ!!」


 狩衣(かりぎぬ)を着た小柄な少女が、涙ながらに男に謝り背を向けた。(はかま)姿で腰に刀を差す女も、苦虫を噛み潰すように悔しさをこらえながら男に背を向けた。


 女達はひた走る。姫様達のところに。遠い背後では、牛頭の雄叫びと、獣共の(とき)の声が上がっていた。


「――――ぅ、うぇっ」

「泣くなっ!! まだ、私達は、生きているっ!! ――最後の、一人、まで……あいつらを殺して、絶対に――」


 男の死を悟り、二人の女がむせび泣く。


 気丈に振る舞おうとして失敗し、にじむ視界をどうにかしながらガムシャラにひた走った。



――新暦1076年。和国では、未だ人々は地獄から抜け出せずにいた。

 


 

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