【第四部】第五十七章 奴らはどこから
謝礼の受け渡しが済むと、しばらくしてその日はお開きとなった。これからのことについては、日を改めて明日会議で決めることに。
皆、迎賓館に案内され一夜を過ごす。稲姫、琥珀はその館の豪華さに大はしゃぎで、夜も豪華な食事に皆で舌鼓をうった。
◆
【翌日】
――央都・城内・応接の間――
翌日、皆が昨日と同じ城の応接の間に集まった。今日は昨日と違い、食事などは必要最小限に置かれ、代わりに会議机と椅子が運び込まれていた。
如何にも、“これから真面目な話をします”との意志が読み取れる。皆そのつもりで来ているので誰からも否やは無かったが。――琥珀や稲姫は食事に期待していたのか、若干残念そうではあったが。
皆が集まり着席すると、昨日取り仕切っていた男が再び現れ、皆の前に出た。
昨日、あの後知った話なのだが、男はまさかの“宰相”だった。そんな偉い立場の人間が宴の進行をしていたとか、後からながら驚いたものだ。宰相は着席した皆を見回してこう切り出す。
「此度の件、そしてその前に引き起こされた戦乱の件、いずれも“帝国”が関与しているとのこと。我々は、もはや人間と妖獣でいがみ合っている場合ではございません。帝国に対してどう相対するか、これからの我々の在り方について議論をしたく、本日は皆様方にお集まり頂きました。忌憚無い意見をお聞かせ願います」
宰相の仕切りで会議が始まった。
◆
「概ねの経緯は、ここにいる者なら皆承知しているじゃろ。早速、本題に入ろうではないか。――奴らは、どこから来てどこに去った?」
「? だから、東の海を渡った先の帝国だろう?」
まず口を開いたのは朱雀だった。奴ら――“マスカレイド”の所在についての確認だ。皆の疑問を代弁するかのように白虎が返すが――
「地続きではないのじゃ。どこから入り込み、どうやって脱出したのかを問題にしておる」
「!? 確かにそうだ! 青龍、わからないか?」
「我は、聖域で奴らに襲われてから、ずっと捕らわれていたからな……済まないがわからん」
「それは僕らも気にしてた。船で来たなら、やっぱり沿岸部だと思うんだ」
「そうですね。“獣界”ですし、調査できていません」
朱雀、白虎、青龍、隼斗、ヴィクトリアがどんどんと話を進めている。
――マズイ。スゴく気まずい!
「ご主人?」
琥珀が違和感に気付いたのか呼び掛けてきて、皆が神楽に注目する。神楽は意を決して皆に向かい語り出した。
◆
「えっと……ごめん。伝えるのが遅れたんだけど、この大陸の北東部沿岸にある洞窟に、船を巧妙に隠してたとか、なんとか……」
場を沈黙が満たす。どこか、呆れも混じってのため息も。
――スゴくいたたまれない!
「――――何故、黙っていた?」
「い、いや、黙ってた訳じゃないよ? ただ――」
白虎の問いもどこかトゲトゲしい。
忘れていたとは言いにくい。
――とにかく、皆の視線がとにかく痛い! やめて! つらい!
とあるテーブルから特大のため息が漏れた。
「はぁ。忘れてたんでしょ、どうせ。それに、カグラは長い間昏睡してたみたいだから、その間に奴らも逃げてたでしょ」
声の方を見ると、“宵の明星”の座るテーブルからだった。あの、いつも無駄に絡んでくるクレハが神楽を擁護していた。信じられない光景に、皆がクレハを見つめる。
「な、何よ?」
クレハは若干照れくさそうだ。後を隼斗が引き継いだ。
「そうだね。クレハの言う通り、どちらにせよ取り逃がしてたんじゃないかな。でも――」
「ああ。すぐに手の者を確認に向かわせる」
「俺の手の者も向かわせよう」
隼斗に視線を向けられた青龍が、確認のためすぐに部下を現地に向かわせることを請け負う。白虎も探してくれるようだ。白虎達は“共感覚”により、念話同様タイムリーに連絡が取れるので、スゴく心強い。
「神楽よ。もう伝え忘れてることはなかろうな?」
「あ、あぁ。――たぶん」
朱雀がジト目で見てくるので居たたまれなくなるが、今回は自分が悪いので仕方ない。
「ふむ。船か……。どうだ? “我々も向こうに行ってみないか?”」
そして、今まで黙って考え込んでいた曹権の口から、そんな爆弾発言が飛び出した。
――そしてそれが、期せずして神楽達に大きな試練をもたらすことになる。この時この場にいる誰にも、それは知る由も無いことだった。
【第四部・完】
次話から第五部となります。
シリアスな展開になりますが、温かく見守って頂けましたら幸いです。




