【第四部】第五十四章 防衛戦【北都】
【一方その頃】
――北都・捕虜収容施設――
「これで全部?」
「だと思う」
刹那達がS―09と交戦していた頃、時を同じくして北都でも敵の襲撃を受けていた。
それを待ち受けたのは“宵の明星”葵と紅葉。刹那グループで刹那を除く四人のうち二人だった。刹那と同じく、“和国”出身の忍であり、黒を基調とした忍装束を纏っている。
「終わったのか?」
声をかけてくるのはS―05。
収容施設内でも最奥の部屋に収容されていた。葵と紅葉はその部屋の前で敵を迎撃し、今さっき最後の一人を片付けたところだ。
こちらでも央都同様、接戦だった。
◆
敵にSナンバーズはいなかった。だが、敵の一部は軍内部に潜入しており、外部からの襲撃と併せ、情報撹乱が巧みに行われた。
今こうして、二人が最奥地点で敵の迎撃を余儀なくされたのも、追い詰められていたことを物語っている。
外には他のギルドメンバーも配置されており、軍と共に敵を迎撃したが、敵の情報操作で手玉に取られたりと、上手く機能しなかった。甚だ不甲斐なく、この後ヴィクトリアの折檻が待ち受けるのは避けえないだろう。
「やぁ、葵、紅葉。片付いたみたいだね」
「マスター」
そんな二人に近付いてくる優男が一人。ギルドマスターの隼斗だった。葵と紅葉がその場に跪く。
「いつも言ってるけど、そんなの要らないって」
「刹那様の主君ですから」
「当然です」
いつも通りではあるが、隼斗としては、同じギルドメンバーの仲間として接して欲しく、これまたいつも通り、困ったように頬をかく。
――“刹那の主君”。
そんな大袈裟なものではなく、刹那をただギルドにスカウトして刹那が了承しただけのはずだが、何故か葵達はみな、隼斗のことを“主君”として扱うようになった。理由を聞いても、
『刹那様のお仕えする方ですから』
と答えるだけで、そういうものだと納得せざるを得なかった。ただ、『主君呼びは恥ずかしい。お殿様でもないしさ』と呼び名を改めることは要望し、
『ではマスターで』
『あまり変わらない気も……』
『ヴィクトリア様もマスター呼びではないですか』
『わ、わかった。それでいいよ……』
と、何とか呼び名を改めてもらった次第だ。刹那は興味が無いのか、葵達に特に何も意見しない。隼斗は一人、気苦労しているのだった。決して、嫌という訳ではないが……。
隼斗は小さくため息をつきながら、最奥の部屋へと歩み寄った。
◆
「君がS―05かな?」
「そうだ」
部屋の中には、精悍な顔付きの青年――S―05がベッドに腰掛けていた。隼斗に話しかけられても全く動じていない。先程まで自分を殺しに何人もの刺客が差し向けられていたのに、それもまるで意に介していないようだ。
「襲って来たのはお仲間かな?」
「だろうな。暗部だ。俺を消しに来たことからも間違いないだろう」
S―05は部屋の外に転がる襲撃者の遺体を無造作に見て告げる。そこには何の感情もこもっていないようだった。
「央都の方も片がついたみたいだ」
隼斗のその言葉に、S―05が初めて反応を示した。ピクリとほんの少し表情を動かしただけだが。
「お仲間のS―09――だかを、確保したってさ」
「――そうか」
だが、反応はそれだけで、仲間が捕らえられたと伝えても、特に感情は動いていないようだった。
(――これは、“白”かな?)
隼斗は試していたのだ。もしかしたら、S―05が自身を逃がすか始末させるために外から仲間を呼び込んでいたのではないかと。
隼斗は洞察力に自信を持つが、この反応は経験上、“白”だった。もちろん、絶対の保証はないが。
「一つ聞きたい」
「お、何かな?」
初めてS―05から能動的な問いがあり、隼斗は会話の糸口を見つけ歓迎する。
「S―07は無事か?」
「ああ。そうだね。彼女は無事だよ。――というか、今回襲われたのはここと央都だけだからね。彼女の収容場所に襲撃はなかったよ」
「そうか」
S―05はそれだけ返すとまた黙り込んだ。
だが、その顔には、ほんの少しだが笑みが浮かぶのだった。




