【第四部】第五十章 防衛戦【央都】④
――央都・城内地下への階段――
コツコツと靴音が硬質な石壁に反響し響き渡る。数は複数。道中<支配>して操る兵三人を自身の前で歩かせたS―09だった。
(“魔素遮断壁”か……。S―03の<爆発>には確かに有効だろうな)
壁を手で触りながら、S―09は自身が感じる異変の正体を看破する。
重要犯罪人や凶悪犯罪人を収容しておく城内の地下牢は、今S―09が見抜いた通り、魔素を遮断する特殊な石材で造られた壁により魔素の供給を断たれていた。
つまり、今向かっている地下では魔法を使えないのだ。常識的には。だが――
(俺達“デザインヒューマン”は、多かれ少なかれ魔素をその身に宿す。――妖獣のようにな)
――“人間に妖獣の力を付与する”。
その研究により生み出されたデザインヒューマン。S―09もその一人だった。
なので、例え周囲の魔素を断たれたとしても、ある程度は魔法を使うことができる。<支配>はかける相手の抵抗力次第で必要な魔素量が増減するが、まだ十分な余裕はあった。
(むしろ、自分達の首を絞めてるというのにな。――まぁ、普通の人間には想定できんか。俺達のような生き物は)
鼻で笑うとS―09は暗い中階段を降りていく。止められるものなら止めてみろと言わんばかりに靴音を響かせながら。
◆
――地下牢前――
「この足音……ああ、あいつが来たんだ。残念だったね。私は殺される。あいつが来たらあなたでも無理よ」
牢屋の内壁に背を持たせかけた少女――S―03が、牢屋の前で佇む忍び装束の少女に声をかける。半ば自嘲気味に。
その忍び装束の少女――“朧”刹那は目を閉じ腕を組みながら、ただ敵を待ち構える。
反応の無い刹那にはもう慣れている。無口なのだ、この少女は。S―03は、反応が帰ってこないことはわかっていつつも、なんとなく寂しさから刹那に話しかけていた。だが――
◆
「安心して。貴女は私が守る」
「――――え?」
目を閉じたままの刹那から初めて返答があった。S―03は信じられないものを見たように刹那を凝視する。
「それが私の任務。貴女は死なせない」
「そ、そう……」
『ありがとう』とも『そんなの無理よ』とも言えず、S―03は呆然とただそれだけを返した。――刹那の言葉に、何とも言えない説得力を感じたのだ。
そして、近付く足音が鳴り止んだ。刹那の存在に気付いたのだろう。刹那もいつの間にか目を明け、通路の奥を見据えている。
そうして、静かに刹那とS―09の戦いが幕を開けた。




