【第四部】第四十九章 防衛戦【央都】③
――央都・城内中庭――
「お、おい! アレ!!」
「朱雀か!? なんだってこんな時に!?」
暴徒化した民衆が城に押し掛け混乱した状況の中、中庭に複数の影がおりた。兵達が目元に手を当て上空に視線を向けると巨大な妖鳥――朱雀とその眷属達が中庭に降り立とうとしているところだった。
混乱した兵が朱雀に向け矢を引き絞る。だが――
◆
「ま、ち、な、さぁ~~~いっ!!」
その朱雀の背から黒いドレスに身を包んだ少女が飛び降りてきた。手には大鎌を持っている。――そう。その少女は、兵達のよく知る所で――
「げぇっ!! “薔薇乙女”!!」
「おま! バカ!! 殺されるぞ!?」
「あ、あんたらねぇ~……っ!!」
怒りに少女がぶるぷると震えている。口元はヒクついている。「ひぃっ!」と兵の一人が情けない悲鳴を漏らした。
「状況は?」
「ヴィ、ヴィクトリア様!!」
「よかった! 助かった!!」
「あ、あんたら……っ!!」
クレハに続き、ヴィクトリアも中庭に降り立った。兵達が涙目でヴィクトリアに群がっていき、クレハの機嫌が更に降下する。
少し遅れ、朱雀や眷属達も降り立った。背に乗っていた面々も中庭に降り立つ。
「なんだこりゃ? 民衆が暴徒化してんのか」
「クレハさん! あっちにキースさんとモルドさんが!」
「あ、ほんとね。行くわよ、リリカ!!」
「はい!!」
クレハとリリカは城門に向かって駆け出した。ヴィクトリアは取り囲むように集まってきた兵やギルドメンバーに状況を聞いている。神楽達はというと――
◆
「わっちの<幻惑魔法>に似ているでありんすね」
「魔素での上書きか。なら――」
稲姫と神楽は、操られた暴徒に施されている仕掛けを見極めていた。異質な魔素の塊が暴徒の頭部に乗せられている。神楽は兵達に取り押さえられ地に伏せる暴徒の一人に近付いた。
「お、おい! 危ないぞ! 離れてなさい!!」
「ご心配なく。――と、こんな感じか?」
制止する兵をやんわりとかわす神楽は<魔素操作>で暴徒の脳に乗せられた魔素塊を除去した。途端に暴徒だった都民が意識を取り戻して辺りを見回した。
「ここは? !? は、離してください! 痛いです!!」
先程までとは別の意味で暴れる都民。都民を取り押さえる兵達は困惑で顔を見合わせている。
「かけられている術を解きました。大丈夫ですから離してあげてください」
「ど、どうやって?」
「痛いです! 離して!!」
「わ、わかった」
訳が分からないながらも兵達は取り押さえていた手を離す。都民は身体が痛むのだろう。涙目でさすっていた。
それを見届けた神楽は大声で周囲に呼び掛けた。
「暴徒を取り押さえたらこちらに! 俺達なら術を解けます!!」
そうして、仲間や兵士、“宵の明星”メンバー達の協力を受けながら、神楽は稲姫と二人で暴徒を正常化させていくのだった。




