【第四部】第四十一章 歓迎の宴②
――“御使いの一族”隠れ里・広場――
「ふむ。しかし、稀有な光景よな。人と妖獣が飲み交わしておる」
「これを守るために我々は隠れ住んでおるのですよ。人間と妖獣、どちらかと接触するだけでも軋轢は生じるでしょう。我々はそれを望みません」
曹権は里長達と飲み交わしていた。人と妖獣が雑多に入り交じり盛り上がる宴をまるで夢現のように感じながら。
里長はやんわりと、だが確かに自分達のスタンスを伝える。人間と妖獣、どちらか片方の勢力に付く気はないと。国王に対して小規模な里の長が大きく出ていると受け取られるかもしれない。だが、これだけは里の総意としても譲れないことだった。
「警戒は無用だ。予はあくまで会合で件の情報を其方らと共有するために来たのだ。戦力や研究素材として接収するためではない」
「失礼致しました。ええ、明日の会合で間違いなくそれは――」
少しだけ空気が悪くなるのを感じた曹権は、話のネタを求めて辺りを見回す。そして、離れた場所で皆と盛り上がっている一人の少年に目を止めた。
◆
「彼――神楽だったかは、随分と優秀な若者のようだな?」
「ええ。一族の中でも突出した才を持っております。――彼が何か?」
「いや、ただ興味があるだけよ。うちに来てくれたら頼もしいと考えてはおるがな」
曹権の本音だった。今回の件の解決は、エクスプローラーのトップクラスギルド“宵の明星”の活躍が大きい。だが、神楽達がいなければそれも成し得なかったと聞く。
軍は隼斗の要請に従い北東の研究施設に出向き制圧しただけだ。その研究施設は神楽達が突き止めたというのだから驚きだ。
実際に研究施設に踏み込んだ者から内情を聞いた所、軍が踏み込んだ時には既にほとんど方が付けられていた――敵が殲滅されていた――とのことで、それはほぼ神楽達だけ――正確には、“青ノ翼”の三人もいたが――で成し遂げたということになる。
何十万も軍を擁していながら“宵の明星”や神楽達におんぶに抱っこの現状は、不甲斐なさを感じると同時、軍の改革のきっかけにすべきと考えているのだ。
「神楽は確かに優秀ではありますが、仲間――妖獣達がいなければ、ただ才を持つだけの子供です。奴らの潜伏場所のきっかけを掴んだのは妖獣の諜報員でした」
「ふむ……そうか。――そうだな」
周りが酒や肴に盛り上がる中、曹権は一人考え込む。
(やはり、今のままではいかんな……。同じことを二度と繰り返させないため、妖獣達との交流機会を今後持たねばならん。この中つ国は、人だけが住まう土地ではないのだから)
幸せそうな周囲の光景をその目に焼き付けながら、曹権は一層決意を固めるのだった。




