【第四部】第三十九章 お茶会②
――“御使いの一族”隠れ里・神盟旅団本部・広間――
神楽が自身の生い立ちを語り終えると、場は沈黙で満たされた。想像以上だったのだろう。どう返していいか悩んでいるようだった。
――いや、一人例外がいた。
神楽の左隣に座る琥珀から急激に闘気がふくらむ。別の意味で場が総毛立った。曹権の背後に控える護衛達が腰に佩く剣を抜きかけた。
「――ちょ! 琥珀! お前は知ってただろ!?」
「――っ!! ごめんにゃ……つい」
琥珀は神楽に呼び掛けられ我を取り戻したようだ。その身に纏う闘気が霧散する。身構える皆を見回して『やってしまった』としゅんとしている。
身構えていた皆もホッとしながら警戒を解いた。よかった。お茶会が修羅場にならなくて。
この場ではマズかったが、琥珀は自分のために――自分の代わりに怒ってくれたのだ。神楽としては困ったが嬉しくもあった。
気まずい場を取り繕うため、神楽は言葉を紡ぐ。
「まぁ、でも今はこうして仲間達と一緒にいられてますし。“奴ら”が頭に仕掛けたものももう無いし、記憶もだいぶ回復してるしで、結構いい感じですよ、今は」
隣に座る大事な仲間達を見ながら言う。
「そうか。――いや、すまなかったな。そこまでの話だとは思わなかったのだ」
曹権は国王でありながら、神楽のような一般民に謝ることも抵抗無くしてみせる。
国のトップの有り様としてはどうなのかわからないが、神楽は好感を覚えた。同時に、曹権が“名君”として国民の求心力厚くトップに君臨し続けていることに納得してもいた。
そして、それまで黙って聞いていた“宵の明星”からは――
◆
「なるほど……君の名前から、同じ和国出身だとは思っていたけど髪色が違うから気にはなっていたんだ。ずいぶん大変な目にあったんだね」
「俺はまだいい方ですよ。“廃棄”前に逃げ出せたんですから」
「あんた、どうやって逃げてきたのよ?」
最後の問いはクレハからだ。曹権ですらこれ以上踏み込むのをためらっているのにまったく遠慮がない。
だが、皆気になるのだろう。誰も止めずに静かにしていた。
「“恩人”に助けられたんだよ」
「どうやって?」
まったく遠慮がなかった。クレハは興味津々といった感じだ。
(でも、ソフィアの“あの力”をどうやって説明する? それに、そこまで話してしまってもいいものか?)
この曹権なら信用してもいいと思うが、国内には様々な人間がいることだろう。
神楽が情報を伝えることで、奴らと同じ様に人体実験を考える者も出るかもしれない。何しろ世界の根本に関わる話だ。ソフィア救出後のことも考えるとやはり危険に思える。
神楽がどう切り抜けようか思案している時だった。
◆
――コンコン
広間の扉がノックされる。曹権の護衛が扉を開けると、そこには侍女が三つ指を立てて控えていた。
「宴の準備が整い、お迎えに参りました」
そうだった。今宵は歓迎の宴を開くんだった。もうそんな時間か。でも、ナイスタイミング!
「そうか。では、話はこれまでだな」
「え~~~!?」
「クレハ! ワガママ言わない!」
曹権がお茶会の終わりを仕切ると、クレハが不満げに頬をふくらませた。そんなクレハを隣に座るヴィクトリアがいさめる。
「他人に聞かれたくない話もあろう。予も興味はあるがな。――さて、それより宴だ! どの様なものか楽しみではないか!!」
曹権はすべてを見通しながらもズケズケと踏み込みはしなかった。侍女に連れられ護衛を従えて楽しそうに部屋を出ていく。
「むぅ~……」
「ガイルやリリカも待ってるだろうし、僕らも行こう」
「そうですね。――ガイルが少し心配ですし」
不満げなクレハを隼斗やヴィクトリアが連れていく。
広間には神楽達だけが残される。
「俺達も行こう」
「うちらにも内緒にゃ?」
先程の話だろう。琥珀も気にしていたみたいだ。
「そんな訳ないだろ? 皆には後できちんと話すよ。それよりも、ほら、飯が無くなっちゃうぞ?」
「それは困るのぅ」
「早く行くでありんすよ!」
「お魚あるかにゃ?」
「きっとあるだろ」
三人と楽しく話しながら広間を出る。神楽達は和気あいあいと、皆の待つ宴の会場へ向かうのだった。




