【第四部】第三十三章 出立
【翌日】
――央都・西門前――
立派な馬車とそれを護衛する騎馬兵が十騎程まわりに控えている。――そう。国王曹権とその護衛達だった。
今回の“隠れ里”への出立は内密扱いだ。国王がこんな寡兵で出立するのを大っぴらにするのは憚られた。良からぬ企みを持つ者共を煽る結果になるかもしれない。
なのでこうして、朝早くに西門前に集合する形を取った。門番には既に連絡は入っていたので、すぐさま大門が開かれる。
そうして、馬車一行は静かに西門を出るのだった。
◆
――馬車内――
「私達も乗せて頂き、ありがとうございます」
馬車の中、隼斗が目の前に座る曹権に礼をとる。曹権は片手を上げてそれを制した。
「予の護衛をしてもらうのだから当然だ。世話をかけるな」
労いの言葉が隼斗“達”に向けられた。そう。ここには――
「わたしに任せなさい! どんな敵が来ても倒してみせるわ」
「クレハ! 陛下の御前ですよ!!」
「でもまぁ、それくらいじゃないとな」
「クレハさんらしいです。私も頑張りますね!」
クレハ、ヴィクトリア、ガイル、リリカが同席していた。
“宵の明星”の中でも精鋭中の精鋭達だ。リリカは戦闘力では劣るが、治癒術に長けているので連れてきた。必要になることが無いよう努めるが、何が起こるかわからないのがこの世の常だ。
他のメンバー達は居残りだ。皆、不満顔全開だったが選ばれたのがそうそうたるメンバーだったので特に異論は出なかった。――リリカは彼らの羨望の眼差しと舌打ちにさらされて少し可哀想ではあったが。
「ハハハッ! 頼もしいな!! 頼りにさせてもらおう!」
クレハの無礼をヴィクトリアが注意するが、『よいよい!』と曹権が笑い飛ばす。噂に違わず、度量のある国王だった。
◆
「それにしても、“守護長城”外の獣界寄りに、人間と妖獣の隠れ住む里があるなんてな。盲点だったぜ」
「うん。基本的に人間は壁内の人界で暮らし、行動する。その先入観念が、今回の“奴ら”の襲撃を未然に防げなかった問題点とも言えるね」
ガイルの発言を継いで隼斗が今回の反省を述べる。“奴ら”とはもちろん、マスカレイドのことだ。
奴らは北東の荒野の地下に拠点を構えていた訳だが、壁外のそんな場所に人間が隠れ住むなど思いもしなかった。
普通に暮らす上では不便極まりないが、悪巧みをする上ではかっこうの隠れ場所となる。
「うむ。予もそこが至らなかったと反省している。だから、妖獣達に提案するつもりだ。壁外に新たな駐在を設けて監視を強化するとな」
「今までは、獣界近くで動きたくなかったもんね。妖獣達に要らない疑惑をもたれたくなかったし」
「クレハ、敬語……。はぁ、もういいわ。でも、クレハの言う通りですね。人界と獣界を二分している弊害を突かれたのはその通りです。陛下のお考えに賛同致しますわ」
曹権も同じ考えを持っていてくれたので、話が早かった。今後同じ輩を出さないための未然防止活動は必須と言えた。
「まぁ、真面目な話は隠れ里とやらに着いてからでよい。それより、聞かせてはくれぬか。そなたらの“冒険”に興味がある」
曹権が目を輝かせて隼斗達にエクスプローラーとしての冒険話を求めてきた。
皆に否やはなく、お茶目な国王に皆で話して聞かせるのだった。




