【第四部】第三十一章 ファン
――央都・宿泊街――
曹権との謁見を済ませた隼斗とヴィクトリアは、城外に出て他のギルドメンバーが待つ宿屋へと向かった。
道中、すれ違う人々が隼斗とヴィクトリアに気付きサインを求め出し、その対応をしていたおかげで予定より遅れてしまった。
二人はすっかりヒーロー扱いされていた。東都での“青龍の眷属達”との戦いで目立った働きをしたこともあり、今やファンクラブまで出来てしまっている。
もともと隼斗やヴィクトリアはその見た目の良さから人気は高かったが、ここに来てその人気の天井が抜けてしまったようだ。際限なく上がっているような気がして、若干怖さすら感じる。
「う~ん……邪険にもできないしなぁ。でも、さすがにこれじゃ仕事にならないから、これからは変装でもするかな」
「マスターはサービスが過ぎます。そんなに女の子達に囲まれるのがお好きですか?」
隼斗としてはそんなつもりは全く無かったのだが、ヴィクトリアの機嫌が悪い。――確かに、ファンのほとんどは女性かもしれない。それか、小さな男の子。年頃の男はというと――
「それを言うならヴィクトリアこそ。たくさんの男に囲まれてたじゃないか」
そう。ヴィクトリアは年頃の男達に囲まれていた。中には、跪きながらヴィクトリアに花束を差し出す者もおり、ヴィクトリアは口の端をヒキつらせながら「あ、ありがとう……」と受け取っていたのだった。
捨てる訳にもいかず、今は隼斗が半分持たされている。何とも言えない気分だった。
だが、当のヴィクトリアは隼斗のこのセリフに大層ご立腹だ。
「マスター! 私がイヤイヤ受け取っていたのはわかりきってるでしょう!?」
顔をズイと近づけ猛抗議をしてくる。どうやら琴線に触れてしまったようだ。
「わ、わかってるよ。だからこうして僕も持ってるんだし。――そんなに眉間にシワを寄せてちゃ、キレイな顔が台無しだよ?」
「マ、マスター!! その“さりげない無自覚な態度”が女を引き寄せてるんです! 少しは自重してください!!」
顔を真っ赤にしたヴィクトリアとワイワイ言い合いながら、隼斗は皆の待つ宿へと向かうのだった。
◆
――宿――
「おっ、帰ってきたか。――って、どうした?」
宿に戻り、取っている部屋に入るとガイルが声をかけてくる。隼斗とヴィクトリアの疲れた様子に気付いたようだ。目をしばたたかせている。
ガイルはソファーに座りながら酒を飲んでおり、赤ら顔だ。だいぶ出来上がっているように見えた。
「またヴィクトリアが騒いでたんじゃないの?」
「クレハ! またとは何ですか!! またとは!!」
二人に気付いたクレハが隣の部屋から現れた。クレハが笑顔で隼斗に近付いてくる。
「ハ~ヤト♪ お土産は?」
「はい。リリカ達と食べてね」
クレハからおねだりされ、持っていた袋を手渡す。クレハは満面の笑みで袋の中を覗いている。道すがらお菓子を買ってきたのだ。
店でも女性店員に手を握られたり大変だった。『私も私も』とまわりも要求しだして、さながら握手会になってしまったのだ。
ガイルもクレハも、東都戦での傷は癒え、すっかり元通りだった。重傷を負っていたが、リリカ達の丁寧な治癒と、武技を応用した気操作により治癒力を高めたことで、医者も驚く程の早さで復帰したのだ。
クレハの傷跡が残らないか心配だったが、「玉のお肌に一つたりとも残しません!」とのリリカの宣言通り、見事に完治していた。隼斗もホッと胸をなでおろすのだった。
「じゃあ、みんなを呼んできて。国王と話した内容を伝えるから」
隼斗の指示に従い、ガイルとクレハがグループメンバーを呼び出す。
“宵の明星”ミーティングが始まろうとしていた。




