【第四部】第三十章 どちらでやるか
――央都・城内・謁見の間――
隼斗が曹権に、“神楽や四神獣から対談のお誘いがあった”ことを伝えると、謁見の間が騒然とした。
「ほうほう! 面白い! その協力者は“四神獣”とも親交があるのか!! まだ子供だというが、なかなかどうして、たいしたものではないか!」
「陛下! 危険すぎます! 黄龍を通して終戦は相成りましたが、“四神獣”が敵意を持っていないとは言い切れません! ゆめゆめ、現地に赴かれませぬよう!!」
膝を打つ曹権とは対照的に、苦言を呈するのは曹権の隣で話を聞いていた宰相だ。
「しかし宰相よ。であれば、どうする? 彼らとの対談を断れなどとは申すなよ? 此度の件の重要情報が話し合われるのは間違いないだろう。予は必ず出席するぞ?」
曹権は腕を組み、梃子でも動かなさそうだ。宰相はため息をつき――
「であれば、彼らをこの城に招きましょう。有事の際に陛下をお守りできるように」
「バカを言うな。守るべきは予ではなく、国民だ。その有事とやらがあれば、国民に被害が出るのだろう? ならば、彼らのいるという“隠れ里”とやらにこちらから出向こうではないか。――どんなところか興味もあるしな」
「陛下は国民の希望であり象徴です。王としてご立派なお考えだとは思いますが、もっとご自身の立場をご認識頂きたい! ……お待ち下され! 『行ってみたい』という本音がもれてますぞ!?」
曹権と宰相の口論が始まる。『これ、長くなるのかな?』と周りが少しげんなりしだした頃――
「隼斗よ。其方の考えはどうだ?」
曹権が隼斗に話を振ってきた。隼斗はルーカスから聞いた内容、そして自身の考えを伝える。
「先方はどちらでも構わないとのことです。――ただ、そうですね……。東都では青龍の眷属との戦いで、人間、妖獣共に多大な死傷者が出ています。その軋轢を抱えたまま“四神獣”達を人界の央都に招くのは、危険が大きいかと」
そう。妖獣側の管轄している領土の一部をこちらに分譲することで講和しているが、人の感情というのはそう簡単に納得できるものでもない。暴動が起きないなんて言い切れない。
もしもそれで“四神獣”が襲われたら、また血みどろの戦いの再開だ。曹権が襲われても同じとは言えるが、場所柄、人間と妖獣が共に暮らす“隠れ里”とやらの方が、幾分安全に思える。
以上のことを、隼斗は曹権や宰相に話して聞かせた。
◆
「うむ。そうであろう。やはり予が直々に出向くのがよかろう。――よいな? 宰相」
「……む、むむぅ……! 納得はし切れませんが、理にかなっていることは認めましょう……。 ――ですが! 護衛は付けてもらいますぞ!?」
一応は話が収まったようだ。隼斗もホッと一息つく。
「隼斗よ。其方らも来るのだろう?」
「はい。お供させて頂きます」
曹権の護衛云々以前に、隼斗達は今回の件の情報をもっと知りたかった。“奴ら”が何者なのか。その“目的”は。ルーカスからの念話で簡単には聞いているが、やはり直に会い話した方が話は進むだろう。
「であれば宰相よ。護衛は最小限に……そうだな。せいぜい十人までにするのだ。増えすぎて向こうに威圧と捉えられても面白くない」
「むぅ……。承知しました。――隼斗殿! 済まぬが、陛下を頼みますぞ!?」
「はい。お任せください」
宰相から言われるまでもなく、曹権の護衛はしっかりするつもりだった。
何はともあれ、話はまとまった。“出発は明朝”で曹権やあちら側と段取りし、隼斗達も準備に戻るのだった。




