【第四部】第二十八章 人間と妖獣の混じりもの
――“御使いの一族”隠れ里・神盟旅団本部――
「“人間と妖獣の融合”……だと?」
白虎がうなる。朱雀も眉をひそめている。青龍と蛟は固く目を閉ざしていた。
「バカな!? 神をも恐れぬ所業だぞ!?」
「そんなだいそれたこと、できるものなのか!?」
重役達が騒ぎ出す。ため息をつきながらも神楽が説明を加えようとするが、思わぬところから援護があった。
「ほんとにゃ。あの施設でうちは“蛟の力を取り込んだ人間”と戦ったにゃ」
琥珀だった。蛟を見ながら真剣な表情で語っていた。
「それだけではない。研究室とやらには、緑の液体につけられた“人間と妖獣の混じりもの”がたくさんおったわ」
青姫も続けて言う。口元を袖で押さえ眉をひそめながら。隣のピノはあの光景を思い出したのか泣きそうになっていた。
「事実だ。妖獣の力を吸い出して人間に移す実験は、儂の目の前で何度も行われた。――その大概は儂の力に耐えきれず変形して死んだが、其奴は成功体だな」
蛟が肯定すると、重役達も事実だと受け止めざるを得なかった。再び室内に重苦しい空気が立ち込めるのだった。
◆
「ふむ。其奴はどうしたのじゃ?」
「殺したにゃ。――腹が立って」
朱雀が琥珀に問うと、淡々とした答えが返ってきた。その場に居合わせた猛鋭は、恐ろしい記憶を思い出したのか、ぶるりと身を震わせていた。
「奴らの施設は隼斗――うちのギルマス経由で軍に伝えた。すぐに軍が来て施設を制圧。研究の証拠品を押収し、内容の確認を進めてる」
これはルーカスだった。ちゃっかり潜入して“青龍の封印石”奪還までやり遂げ、さらには事後処理まで完璧とは。ルーカスを以前から知る神楽からしても恐るべき優秀さだった。
「さすがですね。僕らは戦うだけで手一杯でした」
「……集団殲滅」
「久しぶりだったな。あんな大暴れ!」
エーリッヒ、レイン、ラルフは青姫と一緒に敵を大勢相手取ってたんだったか。よく無事だったな。十分スゴい。
「そう言えば、軍には今の説明は済んでるのか?」
「いや。俺は昨日まで意識が無かったし、知っての通り蛟も昨日戻ってきたしで、してないです」
団長に問われ、神楽は素直にそう答える。確かに、軍にも説明した方がいいかな。
それに、S―03――名前はクリスだったか――がどうなってるかも知りたいしな。ソフィアとの件もあるから、できれば助けたいところだ。
「ならば、軍の上層部も交えて話をした方がよいだろう。向こうの知ってる情報も欲しいしな」
「<念話>で隼斗に伝える」
団長の意見に従い、早速ルーカスが、神楽が身に付けているのと同タイプの指輪型アーティファクトを使い<念話>を始めた。
――あれ、貴重品らしいのに、流石はブラッククラスギルド。トップエリートだな。と、神楽は自分のことを棚上げして感心する。
「すぐに軍の上層部に伝えるそうだ。『追って返事する』だと」
「それでは、一旦休憩にしましょうか」
団長の合図で緊張した空気が霧散した。皆、思い思いにくつろぎだすのだった。




