【第四部】第二十六章 “奴ら”について
――“御使いの一族”隠れ里・神盟旅団本部――
今回の件の情報共有会が始まる。まずは事の発端だ。青龍が苦々しげに口を開いた。
「我の聖域に無断で踏み込んできた輩と闘い、我は負けて捕らわれた。奴らは皆、仮面をつけていたな。外套もまとっていた。――そして、そこの蛟……だったか? を赤く輝く石から出し、操って我にけしかけてきたのだ」
場がざわついた。「なんたる罰当たりな!」や「やはり“奴ら”が!!」と憤る声が室内に響き渡る。
「静まれ! まずは事実確認を。――水神様。今の話はまことですかな?」
「その通りだ。三年前の戦で、儂は神楽と共に奴らに捕らわれ、連れていかれた先の施設で洗脳された。そして、そこの青龍殿に襲いかかったのだ」
蛟が『そうだ』と返すとやはり場がざわつく。
「神楽。お前はどうやってそこから逃れたのだ?」
重役の一人が神楽にそう投げかけると、場が静まり返った。
――それもそうか。事実として、蛟を見捨て、どうやってか一人逃れてきた訳だ。不自然に感じるのが当たり前だろう。
◆
「記憶を消されて廃棄されるところを恩人に救われた。――蛟、悪かったな。俺はお前のことを置いて行ってしまった」
「奴らのやり口は飽きる程見てきた。汝が無事だったことを喜ぶことはあれど、恨むなどあり得んよ」
蛟が笑いかけてくる。申し訳なさを感じつつも、神楽も嬉しかった。――少し気が楽になった。
「その“恩人”とは?」
「施設の同い年くらいの女の子だよ。俺と同じ、奴らの研究対象だ。――今も奴らのところにいる」
今すぐにでも助けに行きたいが、無策で敵う相手でもない。相手は大陸の“人界”で最も大きな国――“帝国”が管理する研究部門なのだから。あまりにも強大だ。神楽は拳を固く握りしめた。
「そうか。しかし、“奴ら”は一体何者のだ? なぜ、お前や水神様、それに里の妖獣達を捕らえた? そして、そこの青龍殿までも。――いや、軍事力の強化であるとの想像はつく。だが、そんな組織、和国でもこの大陸でも聞いたことがない」
団長のその問いに答えられる者はいなかった。――神楽を除いて。
神楽は皆を見回して告げた。
「奴らは東の海を越えた先――和国からは北東らしいが、海をずっと渡った先にある大陸――ピオニル大陸から来た。その広大な人界を支配するヴィシレ帝国の擁する研究部門だ」




