【第四部】第二十二章 蛟の帰還
――南東の森林――
そこは、朱雀が蛟やS―07、S―05と交戦した場所だった。気を失った蛟の巨体を運ぶのは骨なので、厳重な見張りを配置した上で蛟を休ませていた。
今ここに、朱雀の背に乗った神楽達が降り立つ。
◆
「蛟っ!!」
遠目からでもすぐにわかった。蛟だった。琥珀達も皆同意見だ。見間違えようがない。大事な仲間なのだから。
神楽の記憶は、ソフィアとの再会で著しく回復していた。――いや、それだけではないだろう。
博士の仕掛けで脳がやられ稲姫とピノに癒されたことも大きいだろう。――ショック療法としては危な過ぎるが、不幸中の幸いという奴だ。
神楽達は、朱雀が近くに降り立つと急ぎ蛟のもとへ駆け寄った。
神楽達が近付くと、蛟は寝かせていた鎌首を持ち上げる。
「神楽か……。それに、汝らも。久しいな」
「ああ! ――お互い、何とか生き延びたな」
「蛟なら大丈夫だと思ってたにゃ!!」
「うむ! ――だが、さすがに今回ばかりは心配したぞ?」
「とにかく無事でよかったでありんすよ!!」
元気そうな蛟の声だった。神楽達は思わず目が潤んでしまう。
「もう体調はよいのか?」
「朱雀か。ああ、だいぶ回復した。――済まなかったな」
「よい。操られておったのじゃからな。正気に戻って何よりじゃ」
「面目ないな……」
朱雀が『よい、よい!』と笑い飛ばす。この豪胆ぶりは見習いたいところだ。
「移動できるか?」
「ああ。――いや、まだ少しつらい」
神楽が聞くと、まだ傷が癒えきっていないのだろう。身をよじるが、動きづらそうだった。
「人化はできるのかえ?」
「むぅ。できるが」
そうだったな。蛟はあまり人化が好きではなかったか。だが、今は我慢してもらおう。
「西に隠れ里があるんだ。あっちに移動して休もう?」
「そうだな。ワガママも言っておれんか」
そう言うと、蛟の姿が光に包まれる。しゅるしゅると小さくなる。後には――
「この姿も久しいな」
「似合ってるぞ」
水色髪の壮年男性が現れた。威厳と風格を漂わせている。手をグーパーして身体の調子を確かめている。特に問題は無さそうだった。
「では、さっそく向かうか。背に乗るがよい」
そうして、神楽達は再び朱雀の背に乗り、西の隠れ里へと向かうのだった。
◆
――隠れ里――
「水神様だ! 水神様がお戻りになられたぞ!!」
神楽達が隠れ里に着くと、再び住人達に囲まれる。皆、蛟の帰還に歓喜していた。
「宴だ! 宴を開くぞ!!」
誰が言い出したか、『おお~~~っ!!♪』と歓声が巻き起こる。
その晩。急遽開かれた宴にも関わらず、里の者がほぼ全員参加していた。蛟だけでなく朱雀、白虎、青龍達も交え、宴は大いに盛り上がるのだった。




