【第四部】第二十章 命からがらの起床
――“御使いの一族”隠れ里・春と楓の家――
「――んっ……って、はぁ!?」
「「「あっ」」」
目が覚めた瞬間に身の危険を感じた。それもそのはず、キレた琥珀が拳を振りかぶっている。
それをみんなが全力で止めてくれていた。だが、琥珀の力は凄まじいので、一部は振り払われて床に転がっている。
「ほら見るにゃ。起きたにゃ」
「たわけ!! 起きなければ叩き起こすつもり満々じゃったじゃろうが!?」
なんて恐ろしい……。あと少し起きるのが遅かったら死んでいたかもしれないのか。
「主様ぁ!!」
「……あ、抜け駆け」
稲姫が抱きついてきた。よしよしと頭をなでる。
「心配かけたみたいだな。――みんなも」
「そうにゃ! まったく! 知らない女にうつつを抜かして!!」
「我が君。後で話があるのじゃ」
「は、はい……」
なんて恐ろしい仲間達だ! 病み上がりの病人をもっと労ってくれてもいいだろうに。
「アレン」
「あれ? ルーカス?」
久しぶりに見る顔もいた。
「ルーカスさんのおかげで青龍を奪還できたんだよ」
エーリッヒが状況を説明してくれる。よかった。無事に取り戻せたんだな。
「そうなんだ。流石だな」
「お前こそ、少し見ない間にずいぶん力をつけたみたいだな。――それに、仲間もこんなに」
ルーカスが周りを見回して言う。自慢の仲間達だ。誇らしい。
「神楽。お腹減ってない? ご飯あるわよ」
「おっ。ここ家だったのか。食べるよ」
笑顔の春に呼ばれ、ご飯を食べることに。皆で食堂に向かった。
◆
――食堂――
「うまい! おかわり!!」
「あらあら。急に食べ過ぎると身体に悪いわよ?」
「お兄ちゃん、何かいいことあった?」
ごはんがうまくて箸が進む進む。春は嬉しそうにごはんのおかわりをよそってくれている。楓はなぜか不審げに神楽を見ていた。
「ん? 別に?」
「……ふ~ん」
全然信じてない目だが、気にしない気にしない。
「いい夢でも見てたんじゃない?」
ニコニコ顔の春がそう言うと、場が一瞬にして凍った。
(――――え? 何!?)
「ご主人~……。“ソフィア”って誰にゃ?」
あ、なんか琥珀が笑顔のまま怒ってる。
「え? なんで琥珀が知ってるんだ?」
「我が君が寝言で何度も呼んでたからじゃ!!」
あ、なんか青姫も機嫌が悪い。気になって周りを見ると、稲姫は隣でニコニコ機嫌よくごはんを食べていた。他のみんなは興味津々にこちらを見ている。
――まぁ、隠すことでもないしな。
「前に言ったろ? 俺の探してた子だよ」
「金髪の子かにゃ?」
「そうそう」
「我が君とはどういう関係じゃ?」
「命の恩人」
「……今はどこにいるの?」
「別世界」
質問の嵐だった。レインの質問に答えた後、微妙な沈黙が場を満たす。
「別世界って……アレン。お前、まだきちんと起きてないだろ?」
ルーカスが、やれやれという風にため息をついている。
――失敬な。
「世界は一つじゃない。“門”の先にも世界がある。――まぁ、俺もさっき知ったんだけどな」
知ってることをそのまま伝えたんだが――
皆、全然信じていなかった。うさんくさいものを見る目全開だ。――まぁ、自分もあの世界に行かなかったら信じなかっただろうし、気持ちはわかる。
「まぁ、いきなり言われてもわからないよな。そんなことより、――おかわり!」
「はいはい」
ニコニコ顔の春にお茶碗を渡す。今は飯だ飯!
そんな時――
「こ、この里に朱雀さんが近付いてくるわ! 朱雀さんだけじゃない!! 朱雀さんと同じくらい強大な力を持った存在が他にも複数!!」
「ほんとかサンクエラ!?」
サンクエラとルーヴィアルが急にあたふたし始めた。他の皆もどよめく。
「ど、どうするんだ? ――ってか、誰だ?」
「わからないな。朱雀さんのお仲間とか?」
「……白虎とか?」
ラルフ、エーリッヒ、レインの会話の通りだろう。朱雀レベルの強大な存在なんて限られてる。
一応、念のため――
(朱雀。神楽だけど、今、こっちに向かって来てる?)
(おお! 目覚めたか!! うむ。青龍と白虎を連れて其方に会いに行くところじゃ。間もなく着く)
(そうだったか。青龍も無事解放されたんだな。よかった!)
<念話>で朱雀に繋ぐと、思った通りの答えだった。青龍もいるらしい。初めて会うからどんなか楽しみだな。
「今確認を取った。朱雀、青龍、白虎が向かって来てるらしい。俺に会いに来るみたいだ。サンクエラ、<結界>を解いてくれ」
「ええ。わかったわ」
サンクエラが結界を解くと、しばらくして家の外が騒がしくなった。
「来たか」
神楽を先頭に、朱雀達を皆で出迎えに行くのだった。




