【第四部】第十九章 S―01のルーツ②
――黄昏の世界――
「あたしやカグラは、“この世界の力を引き出す”ことができるけど、あの子――“封魔の一族”は、逆に“この世界の力を抑え込む”ことができるのよ」
S―01が鬼と“封魔の一族”のハーフということで、ソフィアからその“封魔の一族”について話を聞いていた。
「一族っていうからには、他にもいるんだよな?」
「でしょうね。あたしはあの子しか知らないけど。それに、話したがらないし気難しいからね、あの子」
“あの子”というのはもちろんS―01のことだ。まぁ、性格ひん曲がってそうだもんな。神楽はS―01が大嫌いなので、評価は厳しめだった。
「ふーん。“封魔”ってことは、この世界の力を“魔”として封じるってことだよな」
「そうね」
「その手段は“門を閉じて力の供給を断つ”か。まぁ、確かに理にかなってるな」
目的は別として、その力の有用性は確かに思えた。
「神楽は他人の“門”を借りて力を得られる。あたしは、“門”をくぐって力を持ってこられる。――どう? 見事にあの子と反対でしょ?」
「違いない」
神楽とソフィアは顔を見合わせ笑い合う。
「俺達“御使いの一族”は、“力を借りて”向こうの世界の秩序を守るために力を尽くしてきた。邪神や悪霊を成敗したりしてな」
「うん」
「“封魔の一族”は、逆に、“力にフタをして”世界のバランスを守ろうとしたのかな? 強すぎる力は災いだからと」
勝手な憶測だが。そうだとしたら、その気持ちには共感できるところもある。“この世界の力”は、あまりに強大過ぎる。
「そういう考え方もあるかもね。――ただ、あの子は私利私欲でその力をふるってる。そして、たくさんの犠牲を出してる」
そう。ソフィアの言う通り、そこが問題なのだ。強大な力に対するカウンターとして力を持つのは抑止力となり、悪いことではないだろう。
だが、奴――S―01は、自分勝手に、“ただの暴力”として力をふるっている。そして、その被害は甚大だ。力は、使い方次第で薬にも毒にもなる。これは、典型的な“毒”だろう。
「やっぱ放っておけないな……」
「でも、“その力”は本物よ。加えて、“鬼の力”もある」
ほんと、頭が痛くなるな。
「そう言えば、あの時はいなかったな」
研究施設に行った時、S―01の姿は無かった。交戦の覚悟はしていたんだが。
「あっ。こっちにいるわ」
ソフィアが目を閉じてつぶやく。
「あっちの身体に意識を向けてるんだけど、あの子が帰ってきたみたい」
「なるほど。出払ってたってことか」
間がいいんだか、悪いんだか。
「というか、そんなことできるんだな」
「カグラもできると思うわよ? やってみたら?」
ソフィアに言われるがまま、目を閉じて意識を“向こう”に持っていく。すると――
◆
「ご主人! いい加減起きるにゃ!! 十秒だけ待つにゃ。い~ち! に~い! さ~――」
「琥珀早まるでない!! “浮気”は後でこらしめればよかろう!!」
なんか凄い危険な会話が繰り広げられていた。冷や汗が止まらない。
「ソフィア。そろそろ戻らないと」
「むぅ~……。そうね。ずっとここにはいられないもんね」
あっ。ソフィアがむくれてそっぽを向いてしまった。
「また来るから。――って言っても、やってみなきゃわかんないけど」
今も無意識下で来てたからな。
「わかった」
ソフィアも一応は納得してくれたみたいだ。
「どうやって戻ればいいんだろう?」
「さっきの感覚で、もっと向こうに意識を持っていけばいいのよ」
「わかった。ありがとな」
ソフィアにお別れの挨拶で手を振る。まだ少しむくれているが、ソフィアも手を振り返してくれた。
「ばいばい。――――またね」
ソフィアに見送られながら、神楽は向こうの世界へと戻るのだった。




