【第四部】第十八章 S―01のルーツ①
――黄昏の世界――
「鬼? それに、“封魔の一族”?」
オウム返しに聞き返す。初めて聞く情報だし、致し方ないだろう。まさか、S―01がその二つのハーフだなんて……。
「あたしも伝聞で知ってるだけだから、そんなに詳しい訳じゃないけどね」
そう前置きするとソフィアは話を続けた。
「あの子はもともと帝国にいた訳じゃないの。和国で研究施設に“迎えられた”のよ」
「拉致された訳じゃないのか?」
「あの子の自由意思で参加してるのよ。あたし達とは違う。強制されてじゃないわ」
「それはなんともまぁ……ひねくれてる奴だな」
好き好んで人体実験しまくる施設に来るなんてな。俺の言い方が面白かったのか、ソフィアがくすりと笑った。
「ひねくれてるのはそうかもね。“半妖”なのに――いえ、だからこそかしら? 『人間も妖獣も滅べばいい』が口癖だから」
「なんか寂しい奴だな」
どんな恨みがあるのかは知る由もないが、その憎悪は憐れに思えた。
「それ、本人の前で言ったら、“ぷっつん”しちゃうわよ?」
「それはいい。今度会ったら言ってやる」
ソフィアがこめかみに指を二本立ててみせる。――あぁ、それはしっくり来るな。
「でも鬼が人間と子作りするなんてな」
「そうね。かなり高位の鬼だったみたいよ? ――確か、しゅてん、しゅーてん……?」
ソフィアが首を傾げながら言うが、神楽はギョッとする。よみがえる記憶を元に言葉を紡ぐ。
「まさか、“酒天童子”か!?」
「あ、それ。詳しいのね? さすがは和国出身」
ソフィアは茶化してるが、神楽としては驚きを隠せない。
「酒天童子って、和国の大妖怪だぞ……?」
「そうなんだ。あたし、詳しくないから」
ソフィアからしたらそうなんだろうが、記憶を失った神楽ですら、名前のヒントを聞いてすぐに思い出せた程だ。それ程の大物だった。
「それでか……あの強さは」
妙に納得がいった。大妖怪の子供であれば、さもあらん。
「それだけじゃないみたいだけどね。言ったでしょ? “封魔の一族”との子供でもあるって」
「確かに。そんなことも言ってたな。――なんなんだ? “封魔の一族”って?」
新しい情報ばかりだが、今は無理にでも詰め込んでおいた方がいいだろう。
「その一族は、カグラやあたしとはちょうど“真逆”。“この世界からの力を抑え込む力を持つ一族”なのよ」
そして、ソフィアは、この世界の影響で生まれた一族――<封魔の一族>について語り出すのだった。




