【第四部】第十七章 元の世界の成り立ち
――黄昏の世界――
「“門”を開いて力を引き出している。そして、門の先には“この世界”がある。ここまではいいよね?」
「ああ」
にわかには信じがたいが、ソフィアがそう言うならそうなのだろう。
「じゃあ、“どうしてこの世界から力を引き出している”と思う?」
「それは――」
答えようとするが、二の句がつげない。
「それはね。力がもともとこの世界にあったからなのよ」
◆
ソフィアの言うことは、わかるようでわかりにくい。
「つまりね? 向こうの世界にある、“門”を通じた力自体が、この世界から持ち込まれたものなのよ」
「――ということは、この世界から“渡ってきた”?」
「そう。力だけじゃないわ。“魔素”や、あなたの身に付けている“その石”もね」
「マジか」
ソフィアが指差す先は神楽の胸元で、そこには“絆石”をくくった首飾りがあった。
「もともとね。向こうの世界はすべて“人界”だったのよ」
「ちょっと待て。さっきから話が急過ぎて理解が追い付かないんだが…………え? マジで?」
語彙力が乏しすぎて残念だが、『マジで?』としか言えない。ソフィアは人差し指を立ててドヤ顔だ。神楽の驚いた反応が楽しいのだろう。
「もともと向こうの世界には、妖獣も神族も魔族もいなかった。魔法すらなかったの。――でも、ある時、この世界から向こうの世界に“渡った”者達がいた。魔素やその石も一緒に持ち込まれたのよ」
――なる、ほど?
「動物は魔素を浴びて“妖獣”に。妖獣はさらに進化して“神獣”と呼ばれるようになる。――その進化の道から外れたのが“モンスター”ね。違いは、進化の仕方でしかないのよ」
「モンスターが“動物の進化のなりそこない”?」
「何をもって進化と呼ぶかにもよるけどね。他者と言語によるコミュニケーションを取れるのが進化の定義なら、確かになりそこないと言えるかもね」
「なるほど。身体や精神の変化自体を進化と定義するなら、モンスターも進化してると言える訳か」
『よくできました!』とでも言うようにソフィアが満足げに微笑んだ。
「人間は進化しないのか?」
「する人達もいるわ。あなたやあたしはどう?」
神楽は「あっ!」と驚く。
「“門”の力を使えてる。俺の一族のは、“妖獣を通じて”だけど」
「あたしの力も使えてるでしょ? 妖獣だけじゃないわ」
確かに。言われてみれば。
「ソフィアって、“半妖”?」
「ぶってもいいかしら?」
あ、あれ? 急に機嫌が……。笑顔だけど怖い。ソフィアはため息をついて続ける。
「半妖はあの子――S―01の方ね。まぁ、あの子も“特殊”で、それだけじゃないんだけど」
「特殊って?」
そして、ついにソフィアの口からS―01――“シーラー”の謎が明かされる。
「あの子は、鬼と“とある一族”――“封魔の一族”のハーフなのよ」




