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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第四部 “世界の仕組み”編
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【第四部】第十五章 離別

 ソフィアが精神体となり、神楽を送った世界へと向かう。“門”を開いて先に向かうと――


 花畑の上に神楽が立っていた。


「カグラ」


 呼ぶと、神楽が振り向き尋ねてくる。


「ここは……どこ?」



――黄昏時。


 薄暗闇の中、地平線がオレンジ色に染まっている。足元には花畑が広がり、橙色に発光する広葉樹の葉の光を浴びて、幻想的な光景を生み出していた。



「ここは“別の世界”よ。あたしは“黄昏(たそがれ)の世界”って呼んでる」


 ソフィアが神楽の目の前に立ち、じっと見つめる。


 神楽は呆然としており、どこか目も虚ろだ。記憶を封印されてからまだ間もないのに一気に色々なことがあり、理解が追い付いていないのだろう。


「今はまだわからなくてもいいわ。でも、“元の世界に帰って”落ち着いたら、――あたしのこと、思い出してくれる?」

「君はどうするの?」


 ソフィアがふっと笑う。泣きそうな顔で。


「あたしは……そうね。あなたと一緒には行けないから、ここにいようかな。――あそこに戻ったって、あなたがいなきゃ意味ないもの」

「なら僕もここにいるよ」


 泣きたいくらい嬉しい申し出だった。でも――


「ここは、カグラには住みにくいと思うな。生身だとね」


 魔素濃度が異常に高いのだ。人体には毒だった。ソフィアは袖で目元から溢れ出る雫をぬぐう。


「あたし、待ってるから」


 神楽は黙って聞いている。


「あたし、ここで待ってるから、助けに来てくれる?」


 そこまで言うと、神楽にも伝わったようだ。はっきりとうなずいた。


 今はそれだけで十分だった。もしかしたら、今のこの会話も神楽は覚えていないかもしれない。


(でも、この記憶があれば、あたしは生きていける)


 ソフィアは涙をぬぐい笑うと、神楽との間に手を差し出した。



 先程と同じ様に、黒い楕円形の穴が開く。


「元いた場所から遠く離れた場所になるけど、そこならあいつらに見つからないから」


 神楽は歩き出す。そして、ふとソフィアの方に振り向いた。


「ありがとう」


 その言葉にソフィアはまた泣きそうになるが、必死にこらえる。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 そして、少年は旅立つ。

 そして、少女は一人そこに残った。


「――ばいばい」



 誰もいなくなった美しい世界で、少女の呟きだけが異界の空に溶けるのだった。



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