【第四部】第十四章 世界を越える力
――和国マスカレイド研究施設・中庭――
検査が終わり、ソフィアは急ぎ神楽を探して回った。だが、誰に聞いても見つからない。施設内を駆け回り、研究員達に咎められるのも構わず神楽を探し回った。
そして――
中庭の隅で呆然とベンチに座る神楽を見つけた。
「カグラ!」
走り回り息切れしながらも、ソフィアは神楽に呼び掛けた。
だが――
◆
「君は?」
ショックだった。膝から力が抜けて、思わずくずおれる。
遅かったのだ。既に記憶は消されて――いや、おそらくはS―01の能力で“封印”されていた。
ソフィアではS―01には敵わない。そもそも、自分の力は“戦闘用ではない”のだ。あんな暴力の権化のような奴に言うことを聞かせることはできないだろう。
記憶の封を開けさせることは絶望的に思えた。――ならば、取るべき選択は一つ。
――今度はためらわない。
「あなた、このままだと処分されちゃうわ。あたしと一緒に逃げましょう! 大丈夫、カグラはあたしが絶対に守ってあげる!」
◆
【夜】
研究施設内に緊急のサイレンが響き渡る。
『S―02がS―03を連れて逃亡中。見つけ次第、速やかに確保せよ。繰り返す。――』
ソフィアはその日の夜に神楽を連れて脱走を試みたが、見通しの悪い夜を選んだにも関わらず、運悪く警備の者に見つかってしまった。
「どこに行った!?」
「警備犬も出せ!!」
和国の研究施設は地上にあった。だが、森の奥深くにあり、まず人は立ち寄らない。そして、どこも似た景色で、どちらに向かえばいいのかもわからない。
だが、ソフィアは神楽の手を引き、がむしゃらに走った。
しかし――
◆
「いたぞ!!」
警備犬の鼻にたどられ、ついには視界に入る範囲にまで追いつかれてしまった。体力的にも、特に優れていないソフィアからしたら限界だった。見ると神楽も辛そうだ。
まだいくらか警備犬との距離はあるが、ソフィアは慌てて茂みの奥にある大きな木の裏に神楽を連れ込み隠れた。
だが、警備犬の鼻をごまかせるとは到底思えなかった。
――だからソフィアは決断する。
◆
「カグラ。あたしの力ね、“世界を越えられるの”」
神楽から反応はない。――いや、意味がわからないのだろう。首をかしげていた。
「でも、“あたし自身は精神しか飛べない”。だけど、“神楽なら運んであげられるわ”」
ソフィアが神楽との間に手を差し出す。すると――
ソフィアの手の先――神楽との間に、黒い、全てを吸い込むような楕円形の“穴”が現れた。
「――さ、入って」
意味がわからず戸惑う神楽の手をソフィアが強引につかみ穴に引き入れた。手、顔、身体とすべてが穴に飲み込まれていく。
神楽が何かを叫ぶ声が聞こえたが、無事“送れた”ようだ。黒い穴を消して、ソフィアは微笑む。
「一緒に行きたかったけど、これが精一杯ね。――さて、じゃあ、“あたしも行かなきゃ”」
そして、ソフィアは木にもたれると、ズルズルとずり落ちていくのだった。




