【第四部】第十二章 人間に妖獣の力を
「和国や中つ国にとっちゃ、迷惑以外の何物でもないんだが……。バレたら普通に戦争が起こるぞ?」
「それは帝国もわかってるはずよ。ただ、帝国は魔族に敵わないまでも、その軍事力には自信を持ってるの。いざとなったら他の大陸にいる人間や妖獣との戦争も辞さないつもりでしょうね」
質が悪いな。いや、いきなり侵略戦争をけしかけられるのとどっちがいいかってなると、どちらもごめん被るわけだが……。
「しかし、戦力増強のためとはいえ、普通、“人間と妖獣を混ぜよう”とするか? 人間であることを捨ててるじゃねぇか」
そう。あの研究施設で行われていた研究の一端がそれだった。ズラリと並ぶ培養槽の中には、その“出来損ない”も多くいた。
「そこは博士の“おかしさ”も影響が大きいと思うわ。帝国から戦力増強指示を受けて、やってることがソレなんだもの」
ため息しか出ないな。
「人間が妖獣の力を使えるようにする……。そうか。その“在りよう”は、俺達“御使いの一族”と似ているのか。だから俺は拉致されて“研究”されたってわけか……」
“研究”と言えば聞こえはいいが、その実は“人体実験”以外の何物でもなかったわけだが。ソフィアもうなずく。
「ええ。博士の興味を引いたのはそこね。ただ、結局、カグラが蓄えていた力は吸い出せても、その先――妖獣から新たに力を吸い出すということは出来なかったの」
「S―01に“封印”されてたからな。妖獣の“門”も閉じてたはずだ。ざまぁみろだな」
その点についてはちょっと胸がすく思いだ。琥珀と青姫達の門は閉じられていなかったはずだが、きっと俺の方から二人との“繋がり”を断ったのだろう。
当時の自分はかなり優秀だったようだし、その辺は抜からなかったに違いない。記憶が無いから推測の域は出ないが……。
「でも、それで“使えない”と判断されてカグラが“廃棄”されることになっちゃった時は焦ったわ。“なんとか逃がせた”けど、記憶は封印されちゃったし……」
ソフィアが無念そうにしょんぼりしている。
――そうだ。それだ!
「そうだ。その話だよ。どうして俺は、一人で――“ソフィアをそこに残して”助かったんだ?」
自分がソフィアを見捨てて一人で逃げたなんて考えたくもないが、はっきりさせておかなくてはならないことだった。
「やっぱり覚えてないよね……いいわ。話すね? あの時のことを……」
そうして、ソフィアの口からあの時――神楽がソフィアに連れられて研究施設を脱走しようとした時の真実が語られるのだった。




